自分の人生を肯定しよう。そしたら色んなことが違ってみえてくる

食べることは生きること─。広末涼子主演の映画「はなちゃんのみそ汁」が2016年1月9日から全国ロードショー(一部の地域で先行公開)。ガンにより33歳で急逝した母親が、幼い娘にみそ汁を作ることを通して“生きること”を伝える実話エッセイがもとになっています。11月にファームビズで映画の紹介をさせていただきましたが、今回は本作が初監督となる阿久根知昭さんにお会いし、涙あり、笑いありの撮影秘話をたっぷりお聞きしてきました。
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阿久根知昭監督

阿久根知昭(あくねともあき)/1966年生まれ。映画監督、脚本家、劇作家。福岡を中心に活動。ラジオドラマ「月のしらべと陽のひびき」(FM福岡2006年)にて日本放送文化大賞ラジオ部門準グランプリを受賞。2013年キネマ旬報ベストテン日本映画第一位に輝いた『ペコロスの母に会いに行く』では脚本を担当。

ボク、はめられた!? 撮影日数はたった19日。
原作があまりに悲しいので、最初は断るつもりでした。

─初監督、お疲れ様でした。短い撮影期間だったと伺いましたが今のご感想は?
いやいや、なによりキャストがよく頑張ってくれました。撮影期間は、たった19日だったんですよ。特に主演の広末涼子、その夫役の滝藤賢一には頭が下がります。そのうえ子役の赤松えみなは映画初出演。見事なやんちゃっぷりで、私もヘトヘトになりましたが、撮影中はそのあるがままの4歳児の魅力をキャスト全員が大らかに受け止めた感があります。

─たった19日で撮影されたのですか?それは考えられないスピードです。
もろもろの理由が重なったんですが、まぁなんとか無事にここまでたどりつけました。実をいえば最初に映画化のオファーがきたときに「この原作は悲しすぎて私には無理。お断りしよう」と思っていたんです。

母親役は広末涼子、原作者であり父親役は滝藤賢一。はなちゃん役には新人子役の赤松えみなちゃんを起用。笑いあり、涙ありの家族の物語。

父親の信吾さん役に滝藤賢一。母親の千恵さん役には広末涼子、はなちゃん役には新人子役の赤松えみなちゃんを起用。原作「はなちゃんのみそ汁」は、昨年の24時間テレビでもドラマ化され話題に。笑いあり、涙ありの家族の物語です。

─最初は監督を断るつもりだったんですか?
そうなんです。しかし周囲に資料はほかにもあるので、原作者の安武信吾さん(亡くなった千恵さんの夫)と娘のはなちゃんに会ってみたらと言われまして。で、行ったら、安武さんに「今回は引き受けてくださり、ありがとうございました~」って、あとは安武家で飲み会です。はい、まんまとはめられました。
(一同、笑)
しかし安武さんご自身が、原作のまじめなイメージと違ってユニークな男で、初対面の私に「阿久根さん、太ってますね」とか「ハゲてますね」とか言うんですよ。映画の冒頭のセリフで千恵さん(広末涼子)が夫のことを「やや無神経」といっているのは、その時の私の印象なんです。とにかく思ったことを言っちゃう憎めない人。まっすぐで正直でとことん誠実。「あぁ、こういう人だから千恵さんは結婚したんだなぁ」と思い、これなら悲しいだけにとどまらない作品ができる。そう感じてお引き受けしました。

亡くなった千恵さんはいつも前向き。
はなちゃん親子と深く接して、映画の核ができていきました。

─私も見せていただきましたが、悲しいけれどユーモアがあって、笑える分だけ切ないという印象の映画でした。
生前の千恵さんは、ブログ「早寝早起き玄米生活」を書いていたのですが、辛いことも悲しくならないように書いていました。ネガティブなことを書くと猛省していて。そのブログは、多くのガン患者やその家族の方から人気で、皆さんに元気を与えていました。だから千恵さんなら悲しい映画を望まないはずだと思ったんですよ。

─滝藤さんの飄々として、時々ずっこけた感じも良かったです
安武さんは、映画の滝藤さんそのまんまのような人です。子どもみたいに無邪気でね。ご本人は、「俺はあんなじゃない」とおっしゃっていましたが、娘のはなちゃんが「いや、あのまんまよ」と(笑)。今では、はなちゃんも中学生になり、安武さんが弟みたいに見える時がありますよ。

阿久根知昭監督

─はなちゃん親子と接することで映画の核ができていった感じなんですね
そうですね。私が料理をつくり、安武家で一緒に夕飯を食べることもありました。千恵さんのブログは私のほうが読み込んでいるので、安武さんと語っていると「千恵さんはそういうこと言わないだろう」「いやいや、そうではなく」とか、映画の深い部分について語り明かすこともありました。

ちゃんと作って、ちゃんと食べるには、「食」に一番近い所に行くのが早道。
答えはとてもシンプルことなんじゃないかな。

─映画では、家族愛を描くと同時に「食」がテーマになっていますね
安武家は、千恵さんのガン発症をきっかけに「食」の見直しをされました。それまでは食品添加物も気にしていなかったし、レトルト食品も多用していたそうです。千恵さんは学生の頃から、お店を営む忙しいご両親に代わり、下のきょうだいの面倒を見て炊事も手伝っていました。食事はパパッと手軽にできる料理が主で簡単にすませることも多く、丁寧にみそ汁をつくるような食生活をしてこなかった。
千恵さんは自分の体質改善とともに、ガンになった自分の体質がはなちゃんに遺伝していないか気にされていたようです。また基本的な食習慣を身につけさせることで、自分が亡き後もはなちゃん自身が自分の体を守れるようにしてあげたかったんでしょうね。その象徴がみそ汁だったわけです。

映画「はなちゃんのみそ汁」

─「ちゃんと作る、ちゃんと食べる」は、映画の中で出てくる印象的なフレーズですが、今の日本は、料理も簡単クッキングなど手軽さがもてはやされる時代です。監督はどうお考えですか?
私は、簡単とか手軽がいけないとは思っていませんが、しっかり食べることは大事だと思っています。それについては食材を選ぶこと、それを選ぶ目を養うこと、そして良い食材を手に入れることが必要になってきます。そうすると今の日本では食費がかさむ。概して「食」に関心を寄せると、エンゲル係数があがるわけです。

─そうですね。安心安全をお金で買うという感じです。より良い食材を探すのは楽ではありません。
そうなると暮らしは、「農」=生産に近いところにあるべきなのかなと私は思うんです。安武さんも佐賀に畑を持ちました。野菜を自ら作り、集落の人とコミュニケーションする。そうすると物々交換が生まれて、さまざまな野菜が手に入る。そこでは、みんなちゃんと作っているし、ちゃんと食べている。良い食材を手に入れるためにどうすればいいか考える必要がないんです。「食」に一番近い所に行く。答えはシンプルなものなんだと思います。

─「食」に一番近い所に行く。なるほど、そのとおりですね。
そんな生活は、いなかに住んでいないと出来ないと言う人もいるけれど、それはイメージだけの問題で、実際にはそんなに難しいことではないもんです。そうして手に入れた食材を家族で料理する。女性だけでなく、子どもも男性もキッチンに立ち、「パパ、火がつよすぎる」なんて言いながら、コミュニケーションの時間を持つことで、人は食に関心を持つようになるんじゃないでしょうか。結局、食にふれながら体で学ばないと、本で読んだり、できたものを食べるだけでは、家庭での食の記憶が残らないし、それを次の世代に伝えることもできない。

屈託のない笑顔の新人子役・赤松えみなちゃん
母親役の広末涼子が粘り強くリード

─話はかわって、えみなちゃんのやんちゃぶりについて、ぜひお聞きしたいです
いやぁ、もうかわいい怪獣ですよ。本番ではいつも練習とは違うことをしてくれるし、ラストの大事なシーンでは、「もう疲れたぁ、みんな帰ろうよ~」って言ったり。だからえみなちゃんの芝居は、ほとんどアドリブです(笑)。

─子役は監督がお決めになったんですか?
そうです。最初は演出家も、えみなちゃんを使うことに反対していたんです。子役のオーディションにくる子は芝居経験が豊かで、4歳児の役に10歳の子どもがエントリーすることもあります。経験のある子は仕上がりがイメージできるのですが、えみなちゃんは何が撮れるかわからない。そのうえ撮影期間も短い。しかし私は等身大の4歳児が良いなと思っていたんです。

お父さんとはなちゃん

演技派俳優として引っ張りだこの滝藤賢一さん。今回はコミカルなおとうさん役がぴったりはまった。

─えみなちゃん起用のポイントは何だったんですか
いつも自然体。ほとんど“素”です。でもセリフは全部入っているんです。そして、そのほとんどアドリブの芝居に、セリフがちゃ~んとのっかっている。覚えたことを言っている感じがしないんですよ。正しい芝居をする子どもや、よどみなくセリフを言いまわせる子どもがいっぱいいる中で、何気ない仕草にセリフがのっかているえみなちゃんに大人たちはメロメロになりました。それに大人が多勢いても物怖じすることなく、ニコニコ笑ってるんですよ。

─映画の中でも、本当の親子みたいでした。
そうですね。それは広末さんの力によるところも大きいですね。アドリブばかりのえみなちゃんに、彼女がアドリブで応じて芝居を作るシーンも多かったんです。食卓でえみなちゃんの手を握って「はな、こっち見て」と言うシーンがあったでしょう(写真下)。あれもアドリブ。実を言うとね、広末さんが手を握ってないと、えみなちゃんがカツオ節の削りかすをどんどん口に入れていくんで撮影にならなかったんですよね。
(一同・笑)

はなちゃんのみそ汁

問題のシーンがこちら。えみなちゃんの笑顔がかわいい。

広末さんは本当に休みなく、えみなちゃんと接してくれました。ご自身も子育て中ですが、彼女からは、「この映画にたずさわって、子育ては愛情だけでなく、良いことも悪いことも含めて親の日々の行ないや考え方が子どもに伝わるものなんだと気づかされた」と話してくれました。

世代を超えていろんな人に見てほしい
いろんな解釈の余地を残すようにつくりました。

─最後に監督から読者にメッセージをお願いします。
この映画の根底にあるテーマは「自分の人生を肯定すること」です。千恵さんのセリフで「人生7割やもん。そう考えたら私の人生けっこうイケてるよね」というセリフがあります。人生、苦しいこと悲しいこと、いろんなことがある。長い短いにかかわらず、生きた時間をちゃんと肯定すれば、色んなことが違ってみえてくるのではないでしょうか。あらゆる年齢の方にみていただける映画で、いろんな解釈の余地を残すようにつくりました。映画って、見るたびに印象がかわっていくので、それを楽しんでほしいですね。ぜひ家族やご友人と見た感想など言い合ってもらえたらうれしいです。

12月14日、阪急うめだホールでの試写会の模様。上映後に阿久根監督のトークショーも。

12月14日、阪急うめだホールでの試写会の模様。上映後に阿久根監督のトークショーも。

阿久根監督、お忙しいなか、インタビューに応じてくださり、ありがとうございました。ぜひこの冬、「はなちゃんのみそ汁」を見てみませんか。大いに笑って、大いに泣ける、ファームビズおすすめの映画ですよ。
(取材/藪ノ賢次、杉谷淳子、文/杉谷淳子)

『はなちゃんのみそ汁』
出演:広末涼子 滝藤賢一
監督・脚本:阿久根知昭
原作:『はなちゃんのみそ汁』安武信吾・千恵・はな著(文藝春秋刊)
配給:東京テアトル(2015年/日本/118分)
©2015 「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ

2015年12月19日(土):テアトル新宿&福岡で先行公開
2016年1月9日(土):全国拡大公開

読者プレゼント(3名様)

今回ご紹介した阿久根知昭監督のサインとともに『はなちゃんのみそ汁』プレスシートを読者にプレゼント。
ご希望の方は、下記、応募フォームにてご応募を。抽選で1名様に進呈します。
締切/2016年1月15日(金)
※当選の発表はプレゼントの発送をもってかえさせていただきます。
阿久根知昭さんサインとプレスシート

 

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