【浅田夫妻の就農ステップ】大阪で夫婦ともに会社に勤務→兵庫県就農希望者セミナーに参加→淡路島・大阪の2拠点居住の期間ももちながら、淡路島で2年間研修→南あわじ市で独立就農→2012年「淡路島あさだ農園」設立
50歳を目前に独立を決意!やるなら今しかない
─農業を志したきっかけは?
互いに50歳を目前に、農業の世界に飛び込みました。それまでは大阪で暮らし、夫は生活協同組合の職員として流通業界で、私は大手雑貨専門店でバイヤーとして小売業界で、長く勤務していました。共働きで忙しい毎日でしたね。それが50歳を前に、夫から「組織の1人ではなく、自分で何かをしたい。脱サラし、自営業を考えている」と相談を受けました。
─よく農業への転身を快諾されましたね
私は、当時体をこわして休養中だったんです。これまで20年以上勤め人として働いてきて、お互いに、精一杯走り続けてきた感もありました。もし新しいことを始めるのであれば、定年を待たず、体力と気力があるうちに─という気持ちもありました。実はトライしたい自営業の中には、農業以外もいくつか候補はあったんですよ。

淡路島あさだ農園の浅田夫妻
─なぜ淡路島に?
大阪に住んでいて、和歌山や奈良も候補にあがっていました。決め手は、夫自身、淡路島によく遊びに行っており、知っている土地だったこと。神戸や大阪など大消費地に近いことですね。
そしてなんといっても淡路島を訪れた時に感じた心地よさです。本土にはないゆったり流れる“島時間”に魅了されました。直観です。それで「淡路島で農業だったら、いいよ」とGOサインを出しました(笑)。
─周囲から反対などは?
夫は大阪、私は関東出身です。大阪よりまだ海を越えて、遠いところに移住したわけです。しかし、もういい年齢ですからね。親の反対はなかったです。もっと若かったら心配されたかもしれません。
─どのように移住を進めたんですか?
まず兵庫県主催の「就農希望者向けセミナー・相談会」に参加しました。農業についての理解を深めるための情報提供や個別相談を行っているんです。農業研修を希望する方のための農業研修相談や、新規就農へのステップなども教えてもらえます。就農を決めてからの行動は早かったです。夫がまずは淡路島にわたり、まず2年間の研修をスタートさせました。
─最初は2拠点居住だったんですね。生活資金はどう捻出したんですか?
兵庫県の新規就農者向けの補助金が1年ありました。研修1年目は私がまだ大阪で働いていたので。若い人はもう少し長いと思います。
※ 就農に関する補助金制度は年齢などによって、交付期間や金額が変わります。詳細は要確認

淡路島には水仙郷があり、例年、年末から早春にかけて水仙の花が山肌を彩る(灘黒岩水仙郷)
生活費は都会の半分!
─農業はすぐに軌道にのったのでしょうか
技術力アップも収益化を図ることも並大抵ではないです。しかしさほど生活に困窮することはなかったですね。なぜなら都会でかかる生活費のざっと1/2で済むから。
─生活費は都会の1/2ですか
大人の2人暮らしだったことも幸いだったかもしれません。まず家賃が安い、野菜などの食材は、ご近所の農家さんからのいただき物も多いです。また島の農家さんが高齢化し、耕作依頼も増え、自分たちの畑の広さも次第に広くなりました。最初は3反~5反からスタート。今は1.5町あります(※2)。手作業では追い付かず、農機具が必須になり、今はこういったことにお金がかかるようになりましたね。
※2 1反=約1,000㎡=300坪、1町=約10,000㎡=3000坪
──淡路島といえば、玉ねぎの名産地!主軸はやはり玉ねぎですか?
今つくっているのは、玉ねぎをメインに、お米、冬野菜(サニーレタス、白菜、ブロッコリー)など。玉ねぎは主に自社で運営するネットショップと、飲食店様の直卸しと古巣の生協です。お米や野菜は農協が多いです。
──最初はどうやって売り込んだのでしょう。新規就農での一番の苦労が「販売先がないこと」という話はよく聞きます。
私たちは、割と早い段階で、ネットショップを立ち上げ、自分たちの野菜をダイレクトにPRしました。今でこそ、農家さん直営のショップサイトは多いのですが、当時はそんなにありませんでした。だからユーザーから反応も良くて大好評でした。
─農家さんが自身で運営しているネットショップが市場にウケたんですね
そうですね。産直野菜のサイトは多いですが、「農家さんから直接、手軽に買える」「とれたてが届く」など、消費者と農家がダイレクトにつながることに新鮮味があったのかもしれません。何よりリピート率が高かった。最初に買ってくれたお客様から、そのご友人や知り合いへ。情報拡散されて、口コミで注文が広がりました。ありがたいことに玉ねぎは、毎年完売します。
─なぜそんなに順調に顧客を獲得できたのでしょう
それはこれまでお互い培った流通・小売業界での経験が活きたのだと思います。具体的には発想の際に添えるお手紙やメールでのやりとりなどです。「お客様とって何が一番うれしいのか」という視点で行動するのは、勤め人だった頃と変わらないかもしれません。
農家は毎年一年生。地域の行事も楽しんで参加
─お客様のハッピーを考えて行動する、商売の基本ですね
栽培ひとつとっても、「お客様に喜んでもらえる野菜をつくる」という気持ちで励んでいます。工業製品と違い、作物はその年の気候、土、水、すべてのめぐり合わせで大きく左右します。そのめぐりあわせで栽培するのは、いつも初めてのこと。「農家は毎年一年生」だと思っています。質の向上にむけては、「これで良いということはなく」、いつも「今」「今日」何をするのがベストかを大切に栽培している感じです。
野菜をおいしくするのは自然。だから私たちにできることは、畑にいって観察し、よく見てあげることぐらいです。まめにまわって病害虫を早期に発見。手遅れにならないあいだに対処するというようなことでしょうか。

地域の行事もたくさん。「楽しく参加させてもらっています」。
─田舎は、行事の手伝いなど大変とききますが
ため池の清掃、神事の参加、町内会のイベント。農業以外に地域の人と行うことはいろいろあります。ただそれは仕事に直結していることも多く、行事に参加するのも楽しいですね。今では町内会の役員も担っています。淡路島の土地柄か、フレンドリーな方が多く、新参者だった頃から、「よく精が出るね」と畑に直接、栄養ドリンクの差し入れをいただいたことも。ご近所さんもどんどん声をかけてくれます。
2019年は、飲食店向けの出荷にチャレンジ!
「野菜サンプルを3キロ無料でお届け」も企画
─次の展望は?
2019年は飲食店向けに直卸しを増やそうと思っています。まずは2月に東京商談展示会「スーパーマーケット・トレードショー」に出展。また南あわじ商工会に入会したので、そちらのイベントにも参加。南あわじ市が主催する飲食店むけの「産地見学会」なども受け入れを予定しています。現在、ご興味いただいたお客様に、サンプル3キロを無料でお届けしています。
─飲食店向けに「サンプル3キロ無料お届け」はいいですね。
また消費者や飲食店向けに農業の交流会もやっていきたいです。これまで毎年、生協の社員さんを対象に収穫イベントをしていましたが、今年からバージョンアップしていこうと。今後もアイディアや企画を練って、消費者の皆さんに発信し続けます。
─農業体験イベントいいですね。やろうと思ったきっかけは?
毎日みんなが食べる野菜ですが、生産の場と消費者がかけ離れていると感じています。どんなふうに実がなるのか、どんな場所で育っているのか。食べることは生きる基本だと思うので、
─生産者と消費者が顔を合わせて交流することで、新たな動きも生まれそうですね
都会にいるとメニューを考えてから、それに応じた食材を買っていましたが、いまは食材から献立を考える感じです。旬のものはそれだけで旨味があるので、味付けを濃くしなくてもよいですし、むやみにゆでするより、蒸したほうがおいしく仕上がるものなど、素材に合った食べ方も伝えていきたいです。

淡路島の夕日。
─最後に農家さんをめざす方へのメッセージをお願いします
「野菜は生き物です」。だから、いつも考えて作業することが大切になります。そうしていると農業は、自らの生き方や哲学的な思想にまで達しているなぁと感じることもあります。だけどいくら作りたい理想の野菜があっても、それで生活が成り立つようでないと農業は続けられない。
だから、自分がどういう農業をめざすのか。その人なりのカタチをみつけることが大切なのだと思います。
そのためにもまず行動してみること。ピンとくる土地があれば、ぜひ足を運んでみてください。今は官民ともに移住サポートを行う団体がたくさんあります。南あわじ市なら、子育てサポートや移住サポートもあります。
あとは地域の人とふれあってください。農業は野菜相手の仕事ですが、職業として成り立たせるには、人があってこそです。
農業は大変で忙しいですが、私は今、島時間の中でストレスフリーな毎日を送っています。
■淡路島あさだ農園 のたまねぎを食べてみませんか
お気軽にお問合せください。
※無料サンプル配布は、飲食店・青果店対象。
■農業体験
収穫体験や直売、見学など、ご要望に応じて対応します。お手紙やブログでの情報発信も行っていく予定です。
■取材協力/淡路島あさだ農園
兵庫県南あわじ市北阿万伊賀野1371-8
通販サイト:awaji-asada.com
メール:asada@awaji-onion.xsrv.jp
TEL&FAX:0799-20-7570