目標は農業界を盛り立て農家の所得を向上させること

大学時代は、広い世界に憧れて、石油掘削を志したりウランの調査にオーストラリアに渡ったり。座右の銘は「夢」。日本の農業に流通革命をもたらした企業、ファームドゥ株式会社・代表取締役社長の岩井雅之さんに、弊社クックビズ株式会社・社長の藪ノがインタビュー。

ファームドゥは、群馬県を中心に中小零細農家と取り引きし、朝採れ野菜をただちに首都圏の店舗へ届ける流通システムを確立。現在は、生産から加工、販売、飲食と6次産業化の先端をいく企業です。原発事故という最大のピンチもチャンスに、この秋から農業と発電事業を両立させるソーラーファームの事業にも乗り出します。
そんなバイタリティあふれる岩井さんに聞きたいことがいっぱい。アイデアの源とは?未来の農業人とは?しっかりお話をお伺いしてきました。

ファームドゥ岩井社長1

岩井雅之(いわいまさゆき)ファームドゥ株式会社代表取締役。1954年群馬県生まれ。東海大学海洋学部海洋資源学科卒。ホームセンター勤務を経て、1994年、農業資材販売店ファームランド(現ファームドゥ農援‘s)開業。1997年、農業生産法人有限会社ファームクラブ設立。2003年、ファームドゥ農援‘sが東京に出店。食の駅、地産マルシェ含め、現在30店舗経営。

 

電気と野菜を同時につくり、収益は30倍以上
新しい農業のカタチ、ソーラーファームが誕生

─いよいよ今秋から太陽光パネルを活用したソーラーファーム(植物工場)の事業が動き出すんですね

行政の認可がおりたばっかりなんですよ。これはね、太陽光パネルを使った水耕栽培で、電気を作りながら野菜も作る画期的なシステムなんです。これまで耕作放棄地に太陽光パネルを並べて土地活用するという方法はあったんだけど、せっかくなら本来の農業も活かせる形が良いと。日立システムズ、カネコ種苗と技術協力し、太陽光パネルの裏までも工夫を凝らし、工場内に射し込んだ自然光を裏面で照り返し、過不足のない日照条件を実現することができました。当社で稼働中の太陽光発電では、1haあたり年間約4000万円の売上で月間あたりにすると約330万円となり、毎月安定収入が得られています。これから実験プラントの建設に着工。実際に野菜が採れるのは来春からです。楽しみにしててよ。

─それは楽しみです。農業従事者が高齢化している中、システム化された水耕栽培なら省力化にもなりますね

腰を折り曲げて収穫することがないので高齢者にも負担が少ないですよ。農家さんはもちろん、若い就農希望者にもソーラーファームの農業にチャレンジしてもらい、電気と野菜栽培で年収800万円を稼げる農業経営者を目指してほしい。うちはノウハウ料とかシステム使用料で稼ぎます(笑)。原発の問題がこれだけクローズアップされている今、太陽光発電は注目のエネルギー。たとえば20年後、電気がいらない社会が来るでしょうか?野菜がいらない世の中になってるでしょうか?いやいや、きっとならないでしょう。ビジネスは、いつもニーズのあるところで生まれるんじゃないかなって思ってます。

農業資材の店から野菜流通へ
きっかけは意外にも採れたて野菜がヒットしたこと

─会社を設立した当初は、農業資材のホームセンターだったそうですが、なぜ農作物の流通に踏み切ったのですか

私は大学卒業後、地元のホームセンターに勤務し店舗経営のノウハウを学びました。昔から人と同じことをするのがキライでね。大学時代は、ウランの調査など海洋資源の研究に打ち込み、海外ででっかいビジネスをしてやろうなんて考えてたぐらいです。だからサラリーマンで培ったビジネスセンスで、まずは自分の店を持とうと農業資材の店を開きました。

20年前当時は農業資材の専門店ってあんまりなくて。種や肥料から農機具まで1つの店ですべてそろえば、農家さんも便利だろうと考えました。たちまち店は評判になり、なじみの農家さんもたくさんできました。そのうちに「栽培した野菜も店に置いてくんないかな」という農家さんの要望が寄せられて。試しに小さなスペースから販売し始めたら、これがジワジワと売上が上がっていくんです。
近所の農家さんが持ってくるんだから、とにかく採れたて。野菜の採れたてってバツグンにおいしいんですよ。市場を通さないので、時短で新鮮!これは今後、田舎だけで売ってたんじゃ伸びしろがない。マーケットのでかい首都圏で売ろうと考えたのが流通事業の始まりです。

ファームドゥ岩井社長3

「実はオレ、最初は野菜置いても売れないと思ったの。だって農業資材の店だからお客さん農家ばっかりでしょ」と茶目っ気たっぷりに笑う岩井さん。

 

高速道路と携帯電話が
新しい流通システムに威力を発揮

─都心部で店を出すには資金が必要だと思うのですが…

2003年に杉並区や板橋区など首都圏に4店舗一気に出店しました。店を出すっていっても、うちはスーパーのような大型店舗ではなく、コンビニの跡地を狙って小さなスペースから無理なく始めました。運送会社とタイアップして、最初から自社物流です。群馬県は関越自動車道が通り、最近では圏央道とつながるなど、とにかく地の利がいいんです。しかし出店地を探すのは今も苦労してますね。出店に良いな思ったところは、ユニクロとかスタバとか大手チェーン店との出店競争に負けちゃうの(泣)。

─出店地探しのコツは?

最終的には、これまでの経験と勘が大切で、自分の目で見て判断するだけ。駅が近くて、物流に適した交通網が整ってて、まわりの店が繁盛してるかとか。コンサルティングなどの交通量調査なんてしません。立地調査して、商圏がなんだって、いろいろこねくり回すほど大抵は失敗しちゃうんですよ。ほんと土地探しはむずかしいですね。

─取引農家も5000軒を超えるとか。農家さんが自分で値付けするシステムが好評だそうですね

今は5000軒以上の農家さんとお取引し、農家さんが望む量を望む価格で販売しています。農家さんの携帯電話には、販売金額、お店ごとの販売量を1時間毎に配信。出荷数、値段について自身で調整できて主体的に販売できる。これが商売には大切なことだと思ってるんです。この辺の農産物は、和歌山の梅とか京都の伝統野菜みたいにブランド化してないので値崩れがおきやすい。市場に持ってくと引き受けてはくれる。でも「野菜を作ったから買ってくれ、売ってやるからおいてけ」っていう仕組みだと、相手が値段をつけて農家はいつまでも受け身の商売になるんですよ。これじゃ、いつまでも儲からないでしょう。

ファームドゥ岩井社長×藪ノ

─アイディアがどんどん湧き出てくる感じですね。苦労はなかったんですか?

売上が伸びずに閉店したとか、失敗はいっぱいあるけど、苦労って思ったことないですね。そういえば今の主力事業でもある「食の駅」は失敗から生まれてるんですよ。赤字続きの農業資材の大型店を閉めるか、取り壊すか、テナントとして貸すか…、考えあぐねていた時に、ふと「食の駅」ってネーミングを思いついたんですよ。なんだかほんわかして、おいしいものがいっぱいで、人が集まる賑やかしいイメージ…。そこで“ネーミングありき“で商品構成を考え、野菜などの生鮮品だけじゃなくパンやドレッシング、漬物や乳製品も盛り込みました。食の駅なんだから、そこでおいしいものが食べられたらもっと面白いなと飲食もできるようにしました。で、商標登録も取って店をオープンさせたら、売り上げがなんと240%増になったんですよ。

食の駅所沢店

埼玉県で5店舗目となる「食の駅 所沢店」が2014年11月19日オープン!

 

─B to B向きの土地だと思って商売したら、実は B to C向きの土地だったということですか。それは面白いですね (※)

今まで生産者のための店づくりばかり考えてたけど、真のお客様が誰なのか考えようとしてなかったんだね。農業資材の店が振るわなくなっても、地元の主婦が野菜や食材だけは買いに来てくれてた。成長の目がそこにあったということなんです。同じ立地・同じ規模なのに、これだけ違うものになるんだと身にしみて感じました。現状の枠の中で手を替え品を替えしても1~2%の変化にしかならない。全く新しく変えることで240%に伸びた。でも、これがなかなか切り替えられないもんなんだよねエ(苦笑)。

食の駅への業態転換がうまくいったことで、東京への出店にも一気に弾みがつきました。やっぱり商売は、現場に立ってお客さんの声を聞き、常にアンテナを張って感性を鈍らせないようにしないと。

※Business to Business=企業や法人との取引・商売、Business to Customer=一般消費者との取引・商売

─成長が止まったと感じることはなかったんですか

いや、2011年にとまりました。その原因は東日本大震災による福島県の原発事故。首都圏のお客さんが群馬の野菜を見向きもしなくなったんです。こればかりは仕方がないですね。地震のリスクは、今後も考えられるけれど、いつくるのかわからない地震に怯えてマーケットを広げないというのも違うと思っているんです。首都圏はチャンスの塊。日本中でどこより一番売れるって分かっているし。今は原発事故の混乱も落ち着き、おかげさまで売り上げも回復しました。

話は戻るけれど、ソーラーファームも地震を経験したからこその発想です。この時、電気のありがたみや必要性を強く感じました。震災時の計画停電では、バーコードで管理している商品を暗闇の中で1つ1つ確認しながら販売しなくてはいけなくて本当に大変でした。

就農したいなら経営を学べ
これからの農業界はマネーに強い人材が生き残る

─今では生産から販売まで6次産業化の先端を走っていらっしゃいます。
一貫して大切にしていらっしゃることは?

一貫して掲げていることは『農家の所得を向上させること』。今の農業は労働の割に収入が低いと思います。私は農家の三男坊で親の苦労を見て育っているから、本当にそう思うんです。所得向上のためには6次産業化は必須です。仮に、原価48円のキャベツをそのまま販売すれば100円。コールスローのサラダにすれば1000円になるかもしれない。付加価値を高めれば収入も高まるんですが、一般の農家じゃ人手も費用もないのでできない。今後はやはり農業法人や協同会社を設立することがポイントになってきますね。

─そのためには人材育成が必要になってくると思いますが、社員教育で工夫している点を教えてください

現在、600人ほど従業員がいるのですが、会社の方向性や指針を全スタッフが共有することが大事だと思います。それはアルバイトから経営陣まで全てです。400人を超えてから、その必要性を感じるようになり、文書にして配布するようになりました。また社長講話の時間を設けて、直接話す機会を積極的に持つようにしています。そうそう、私は人と違うことがしたいなんてことばかり思ってるような人間なんで、人を上手に導く仕事はそもそも向いてない(笑)。トップは、そういう自分の欠点に早く気づくことも大切です。だから私はほかの人に任せてます。

ファームドゥ岩井社長×藪ノ2

右/ファームドゥ社長・岩井雅之さん、左/弊社クックビズ社長・藪ノ賢次

─そうなんですね。では岩井さんの考える良い人材とは?
今後、農業界にはどういう人が必要になってくるでしょうか

私の経験からみて、異業種から転職してくる人はイノベーションを起こす人が多いですね。転職組といっても、都会でバリバリ頑張ってるような人。例えば自分の都合でなく親の介護や家族の事情でUターン入社する人がいるけれど、そういう人は業界が変わっても頑張るね。これからの農業界には対人能力、交渉能力…、あとはやっぱりお金の流れがわかる=経営センスのある人が必要ですね。
そうそう最近、感じるのは女性のパワー。モンゴルやミャンマーで農業スタッフの募集をすると、男子じゃなく女子が応募してくるんですよ。時代も変わりましたね。

─最後に若手の農業家や就農を目指す方にアドバイスをお願いします

若い人には、失敗をしたらいいと言いたい。プラス思考で常に前を向いて行けと。今の教育は小さい頃から何をしたらダメ、これをしてはいけないとそんなことばかり。特に農業は、今、やり手がいないんだから、ライバルも少なくチャンスはいくらでもあります。それには夢を持たないと。そこで私は「夢のサイクル」というものを作ってみました(下参照)。夢の実現には、まず目標を。これがあると計画から実行に進んでいける。私のこれからの人生の夢のひとつに、若い人が農業をやってくれるステージを作ることがあります。失敗を恐れず・向上心を忘れず、石の上にも3年の精神で農業界で頑張ってほしいですね。

■夢のサイクル
夢(希望)がある人には ─ 目標がある
目標がある人には ─ 計画がある
計画がある人には ─ 実行がある
実行のある人には ─ 結果がある
結果がある人には ─ 分析がある
分析がある人には ─ 成長がある
成長がある人には ─ 夢(希望)がある

 

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ファームドゥ岩井社長の「お仕事七つ道具」拝見!

岩井さんにお仕事の七つ道具をお聞きしたところ、登場したのはスマートフォン1つ。あとは頭の中に七つでは収まりきらない夢の数々があるのだとか。目下の夢は、2020年東京オリンピックに向けて食のオリンピックを開催すること。日本のトップに輝く食材を世界のアスリートに食べてもらいたい─。「きっと農家のレベルも上がるよ。プロのアスリート同様、農家さんも競い合って、スポットに当たる舞台が必要。いい作物を作ったら表彰すべきだよね」。

岩井社長、お忙しい中、本当にありがとうございました。

ファームドゥ社長 座右の銘

■ファームドゥ株式会社
群馬県前橋市問屋町1-1-1 NF2ビル3F
TEL 027-219-3100
http://www.farmdo.com/
文/杉谷淳子

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