葛城山麓農園1

葛城山麓農園・園主:西村俊伸さん

奈良と大阪の県境。御所市で増えつづける耕作放棄地をなんとかしたい

─そもそも農業とのかかわりは?

幼いころは、よく祖父といっしょに畑や田んぼの手伝いをしてましたね。うちはもともと農地を人に貸していました。父は家具屋として事業を成功させ、現在も現役で事業を切り盛りしています。私自身も父が経営する「家具サロン良家」の社員です。これまで輸入業務や、新店舗の立ち上げにも携わってきました。

─それがなぜ農業を志そうと思ったのでしょうか

それは周囲に耕作放棄地が増えたからです。うちも農地を借りてもらってた人が返してくるように。ほかにも「畑の面倒を見てくれないか」という話が舞い込むようになり、管理農地がどんどん増える結果になりました。

里山体験 – 葛城山麓農園 風景1

御所市の西側には、金剛山、葛城山の山並みが連なります

─若い方で農業で身を立てようという人は減りましたしね

そうですね。特に私がいる地元・奈良県御所市は、農業従事者は10年前の約半分になったといわれています。
管理しようにも、御所市は葛城山がせまる山肌にあり棚田が多いのが特徴なんです。山あいに点々とする農地は管理しにくいんですよ。国の耕作放棄地への対策は、平地を基本にしているので、この辺の条件にまったく合わないんです…。

─中山間地域は、特に課題が山積みですし…

それが2001年、私が33歳の時に、「社団法人 葛城青年会議所」に入会したことをきっかけに、私も町の課題解決にむけて具体的に取り組むようになりました。
「葛城青年会議所」に入所してなければ、今の私はなかったかもしれません。大きな転機でした。

「葛城青年会議所」では、様々な委員会があり、いろんな活動を行っているのですが、その中のプロジェクトに「葛城古道を歩くイベント」がありました。「葛城古道」は、御所市を通るルートで、奈良県と大阪府の県境にある金剛山と葛城山の奈良側の山すそに沿って、南北に続く道です。観光資源としてPRしようとの計画で、地元・御所市に関わることなので、私が担当となって、「葛城古道」に関するアンケートを実施することになりました。
その結果、課題が浮き彫りになるとともに、いろんな可能性が見えてきたんです。

葛城古道ハイキング – 葛城山麓農園2

のどかな道が続く「葛城古道」。

市と仲間を巻き込んで、G級グルメほか多彩な仕掛けにトライ!

─地域の課題とは?

「葛城古道」そのものは、葛城王朝の史跡もあり、開発されすぎない素朴な雰囲気が魅力です。ウォーキングするにももってこい。しかし休憩するところや店もなく、記念となるお土産や物産もありませんでした。こんなに農作物をつくっているのに…です。

─自然や農作物は豊かにあるのに、それは残念です。

地域にはカタチとして何もなかったんですよ。それで地元の名物料理をつくっていこうと、御所市が募集する市民提案による“みんなの夢”事業に、「東風の会」がエントリー。「葛城の峰 G級グルメコンテスト」を提案したところ、それが選ばれたんです。私はG級グルメコンテスト実行委員会 コンテスト部門 委員長として、積極的に町おこしに関わりました。

野菜葛城山麓農園 野菜

─G級グルメを開催していかがでしたか?

御所市は、オリジナリティあふれる食材の宝庫です。大和伝統野菜のひとつ「大和いも」や、ブランド合鴨肉「倭鴨(やまとがも)」、古くからの和菓子屋さんや、杉樽で無添加無調整の醤油づくりにこだわる片上醤油もあります。
また霊峰、金剛山・葛城山が連なる山あいなので、水もおいしい。酒どころです。御所市にはコアな日本酒党からも支持される日本酒「篠峯」を醸す千代酒造、「風の森」を醸す油長酒蔵、「百楽門」を醸す葛城酒造があります。

市からも予算が出て、それらを活かし当日のイベントはおおにぎわい。いつもは閑散とした町が、人と車でいっぱいになりました。
ただ…賑わいが続かなかったんです。

─賑わいが続かなかったというと?

イベントで町がにぎわう様子をみて、地元の食材はポテンシャルがあると確信しました。でもそのときだけで、日常にもどると、また閑散とした町に戻りました。
だからイベントの日だけでなく、もっと日常的に地元の名物食材やスポットをわかりやすくカタチにし、人を呼び込み、町をPRしていく必要があると思いました。耕作放棄地は増えるばかりですし。

4 葛城山麓農園 ホーム

葛城山麓農園では、ハウス栽培もおこなっています

学びなおすことは、遠回りのようで近道だった

─行政には相談に行ったんですか?

余った農地の有効活用もふくめ、行政に相談にいきましたが、新規就農の窓口はあるのに、農地を受け次いで農業に参入する人の相談場所がないんです。
6次産業化の説明会がヒントになりそうだとききつけて参加。自分がもっと農業のことを勉強しなければと感じました。

そこで、地域資源を活用しながら農業ビジネスを始めるために本格的に学ぼうと、2014年に、46歳のときに「アグリイノベーション大学校 アグリビジネスコース」に入学しました。

─エッ?学生に戻って再スタートするなんて、勇気があります!

分からないことが多すぎて、1つ1つクリアにしていこうと。もちろん家具屋の仕事も、町おこしのお手伝いも、家族もいて、すべて並行して行っているので大忙しですが。それでも翌年には、地域活性化に取り組む奈良県が主催するビジネスコンテスト「ビジコン奈良2015」で、「葛城山麓エリアの観光資源と大和伝統野菜の大和いもを活用した地域活性化プラン」でまほろば部門優秀賞を受賞しました。

hatake15大和いも

葛城山麓農園でも栽培・直販する「大和いも」。見た目はゴツゴツしていますが、粘りのある味わいが特徴。

 

─スピーディーに結果を出すのは、並大抵の努力ではないと思います。
学校で学ぶことは遠回りなようで、近道だったんですね。

ありがたいことに、私たちの世代は結束力があり、ヨコのつながりが深く、まとまっています。小中高の幼なじみも地元でがんばっています。人の輪に恵まれたことが良かったんだと思います。

農業ビジネスに、いざ参入!

─そして農業法人を立ち上げたんですね。

そうですね。市が法人化したほうが良いとすすめてくれたので、農業法人として起業することにしました。2015年、やっと葛城山麓(カツラギサンロク)農園株式会社を立ち上げました。
大和伝統野菜をはじめとする農産物の生産の他、6次産業化も積極的に行っています。2018年12月には小規模ですがジェラート工場も完成させました。

私達について – 葛城山麓農園

葛城山麓農園のメンバー

─農業に本格参入することに、ご家族からの反対はなかったんですね

父は応援してくれています。地元のためですしね。
収穫した農産物は、大阪のスーパーなどに卸しています。直販売も徐々にすすめたいと、今は地元のカフェにも、ハーブや野菜を卸しています。

─農家レストランもつくる予定だとか

今年の夏は、「葛城古道」を訪れる人たちが、気軽に利用できる農家レストラン「大和四季旬菜 白雲庵 BYAKU-UN-AN」をオープンさせます。「葛城古道」添いにあり、大和三山が見渡せるロケーションです。大和伝統野菜をはじめ、地元食材をふんだんに使った料理をお出しする予定です。観光客を想定し、すでに「摘み取り体験」や「里山体験」ができるように整備しています。
あとはレストランウエディングとしてご利用できるようにしていきますよ。将来的には宿泊施設も考えています。

レストラン – 葛城山麓農園1

農家レストランは、大和三山を見渡す葛城山麓に建設予定。

ただいまスタッフ募集中。農家レストランに興味のある方はぜひ♬

─夢が広がりますね。目下の課題は?

農業に参入して一番の問題は、雇用。「人」です。これまで地方から移住して社員になってくれたベテランスタッフも複数いました。私は農家としては新入生のようなもので、経験豊かな方が来てくれて助かっていました。しかし、栽培方法でメンバー内で意見が分かれたりと、紆余曲折をたどりました。今は長く定着して働いてくれる人材の確保が課題です。

─夏まで特に農家さんが忙しい時期ですし

5月以降は農作業が山積みです。目下、農業スタッフ、そして農家レストランのキッチンスタッフを募集中ですよ。興味がある方は、ぜひ御所市に遊びにきてください。
農家レストランができたら、次は、地元にあるアクティビティ施設とタイアップして、レストランのお客様や観光で御所を訪れた方が、乗馬や葛城山の山頂からパラグライダーなどができるようになればいいなぁと思っています。

─すごい発想!

いえいえ、乗馬クラブなど、地元にあるんです。スノーボードの銅メダリスト・平岡卓選手プロデュースの「御所スケートボードパーク」もありますし、ここには、いろんな可能性があると思っています。周りを巻き込んで、PRするのが私の役目ですね。一人では広がらないことも、周りと組めば、大きな可能性が出てきます。

ごせマルシェに出店しました! – 葛城山麓農園1

収穫した野菜は地元の「ごせマルシェ」にも出店。

─1人で3足、4足のわらじで活動する西村さんのバイタリティはどこからくるんでしょう

どうなんでしょうね。ただ地域資源である観光・農・食で地域を盛り上げ、自分が育った町に貢献したいだけで…、走り続けている間にいろんな役回りがきただけかもしれません

─最後に、周りを巻き込む力ってどうしたらつけられるのでしょう。

どうでしょう…。それは一歩一歩やるしかないのかな。行政に協力を仰いで動く。なかなか認可がおりなくても、是正点をきいて、分からないことは、周りのひとに積極的に聞いて、自分なりの回答をだして、また足を運ぶ…。の繰り返しでしょうか。とにかく地味でも働きかけることですかね。
あと、法律の勉強も欠かさずです(苦笑)。

編集後記
農家レストラン「大和四季旬菜 白雲庵 BYAKU-UN-AN」のオープンにあたっては、地方銀行からの協力を得られれば、行政から補助金などのバックアップができますよとアドバイスを受けたのだそう。そこで2017年1月に南都銀行主催の『ビジネスプラン事業化PROJECT第3回「〈ナント〉サクセスロード」』に果敢にチャレンジ!みごと大賞を受賞し、融資を取り付けたそうです。周りを巻き込むには、「地道に働き続けること」「法律の勉強も欠かさず…」はこういった時に活きてくるんだと感じました。柔和な笑顔の西村さんの、底知れぬバイタリティに脱帽です。(ライター・杉谷淳子)

■取材協力/ 葛城山麓農園株式会社

奈良県御所市楢原1619-3
メール:ksn@ryouke.co.jp
TEL:0745-44-8369
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