「自産自消」のビジネスモデルで耕作放棄地ゼロをめざす

農業の従事者は10年前に比べて約20%減少。後継者不足で荒れてゆく水田や畑は、今や東京都の約2倍。インタビュー「この人に会いたい」第1回は、“自産自消”の循環で農業界にイノベーションを起こすベンチャー企業・株式会社マイファームをご紹介。体験農園という形で耕作放棄地をよみがえらせ、スローライフに関心を寄せる若手ファミリー層に人気をよんでいます。また農業人育成のための週末農業スクールも話題です。

今回、株式会社マイファーム創業者・社長の西辻一真さんにインタビュー。メディアにもたびたび登場する西辻さんに、人生の転機をお聞きしながら、今後の農業、ご自身の夢についてたっぷりお話をお伺いしてきました。

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マイファームが運営する新しいスタイルの八百屋「マイファーマー」にて。体験農園マイファームで採れた野菜や全国のおすすめ野菜を販売。

 

11月からマイファームが運営する農業スクールの来春募集がスタート

─週末農業ビジネススクールが好評だそうですね

マイファームでは、体験農園を通じてもっと農業を学んでみたいという方のために、2011年から週末農業ビジネススクール「アグリイノベーション大学校」を開校しています(前身:マイファームアカデミー)。仕事と両立できるように週末学習のスタイルを基本にしています。「農業をしたい」という人は増えていますが、せっかく仕事を辞めて独立しても離農する人が後を絶ちません。いざ野菜を作っても販路開拓、販売法でつまずく人が多いんです。だから通いやすい形態にし、農業の経営、マーケティングもしっかり学べるようなカリキュラムにしています。野菜の作り方を学べる学校はたくさんありますが、社会のニーズに合わせてどんどん変化していかなければ。就農定着率ナンバーワンといわれる学校を目指しますよ。

農への挑戦はなんと幼少時から
ビジネスモデルの構想は大学時代に

──そもそも農業を仕事にしようと思ったきっかけはなんでしょう?

一番の影響は母ですね。実家は福井県。農家ではないのですが、家には家庭菜園があり野菜作りをしていました。福井県では小さな菜園付きの家は珍しくありません。畑は、幼少の頃から僕の格好の遊び場でしたね。母の見よう見まねで野菜を作り、日当たり、水はけとあれこれ子どもながらに研究したものです。絶対母さんよりおいしい野菜を作るゾってね(笑)。プロセスや努力が収穫物となって結果が出るのが面白かったんです。今も野菜を育てることは、問題を解決する力を養うことにつながると思っています。

──作り手ではなく、農業を支えるビジネスで起業することになったのは?

高校生になった頃、周囲の畑や水田が、どんどん雑草だらけの土地に変わっていくのに気づきました。高齢化で継ぐ人がいない農地。儲からない農業。福井の農業が元気になるブランド野菜が作れたら面白いと思い、大学は迷わず農学部を選びました。しかし、担当教授の食糧に関するレポートを読んで、また疑問がムクムクと…。

──どんな疑問ですか?

その頃、ぼくは大学で、生産性の高い作物、害虫に強い種を作る研究に打ち込んでいました。レポートでも人口増加が原因で世界的な食糧危機がいずれやってくる。そのために生産性をあげる必要があるとのことだったんですが、一方で日本では農家の数が減っている。生産性をあげるより、担い手を増やす方が大切なのではと。野菜を作ることは大好きでしたが、それだけでは、日本の農業は明るくならないと思ったきっかけでした。

ちょうどその頃、ロハスだ、半農×半Xだと言われ始めた頃で、耕作放棄地を自然や環境に関心の高い人たちが農業体験する場になれば一石二鳥だと。体験農園の仕組みは学生の時に思いつきました。

──学生の時にビジネスモデルを考えたんですね。起業後、苦労はありましたか。

2007年に起業。体験農園として耕作放棄地を貸してくれる農家さんをひたすら探す毎日が始まりました。しかし先祖代々守ってきた土地に対する農家さんの思いはこちらの想像以上で…。京都、兵庫、大阪と半年で300軒はまわったけれど反応なし。都会から来た若いヤツが、体験農園で農地再生だ、新規ビジネスだとやってきた。なんだそれは?=胡散臭いとなるわけで(苦笑)。

一番悲しかったのは、むこうから「休耕地をなんとかしたい」と連絡があり、交通費をやりくりし遠方まで夜行バスで何度も通い、共感を頂いたはずだったのに、最終的に「若いからやっぱり信用できない」とお断りされたこと。年齢は自分ではどうしようもないですからね。これから続くであろう農家さんとの壁の高さを思い知らされた出来事でした。

──突破口はなんだったのでしょう

それは人との出会いですね。あきらめずに農家さんまわりを続けていく中で、理解者が出てきた。一番の出会いは現在マイファームの取締役をしている谷則男さんとの出会いです。当時JAでの要職を任され、今までなかなか入り込めなかった農家さんの集まりに、ぼくをどんどん引っ張り出してくれた。出会いが出会いを生み、理解者が増えた感じです。

西辻一真(にしつじかずま)株式会社マイファーム代表取締役。1982年福井県生まれ。高校時代から農業問題に疑問を抱き、京都大学農学部資源生物科学科へ。2007年株式会社マイファーム設立。2010年アグリイノベーション大学校開校。2010年農水省政策審議委員に就任。

西辻一真(にしつじかずま)株式会社マイファーム代表取締役。1982年福井県生まれ。高校時代から農業問題に疑問を抱き、京都大学農学部資源生物科学科へ。2007年株式会社マイファーム設立。2010年アグリイノベーション大学校開校。2010年農水省政策審議委員に就任。

復興トマトプロジェクトで一躍話題に
地方の農業復興で大切なこととは

 ──東日本大震災をきっかけに生まれた「復興トマトプロジェクト」も、多くの人の力で成功したんですよね

そうですね。復興トマトの実現は本当に大変でした。震災前、ちょうどマイファームの拠点を東北に作ろうと思っていた時で足繁く通っていたんです。震災後、懇意にしていた宮城の10軒ほどの農家さんに呼ばれて、津波による塩害にあった土壌改良の相談を受けました。こんな時こそ役に立ちたいと、ぼくも全面的に協力することを申し出ました。

 ─何が大変だったのですか

しかし、ここでも一番の苦労は『人』であり、一番の解決の糸口も『人』でした。農地を再生し、農家として再び自立するには、地元の団結力とモチベーションが必須です。それは土壌改良するために畑に微生物資材を撒いたり、壊れた水路を修理したりすることよりももっと難しい。先行きが不透明になると農家さんの意見は分かれ、離脱する人も出てきました。あきらめる事は簡単です。でもどんな状況になっても希望を捨てずに頑張ろうとする人がいるものです。ぼくも何度も粘り強く励まし、そうやってまた次の理解者につなげる。話しながら、農家さんと互いに涙を流してるときもありました。1年後、畑に真っ赤なトマトが鈴なりに実をつけた時、地元の人の心がやっと一つになりました。復旧には3年はかかるといわれていただけに、本当にうれしかったですね。

──地方の農業は人口減など問題が山積みですが、一番大切なことは何だとお考えですか

今、ぼくたちが考えないといけないことは、本当に農家さんの気持ちになって考えているかということです。人口減、限界集落…。地方の農業は大変だといわれますが、本当に大変だと思っている農家さんは、ぼくが知る限り10%もいないでしょう。自分の代で終わりにしてもいいかなという方が大半です。それよりも商店や病院がなくなっていくことの方が大変だと。だからぼくは地方の再生=農業の再生とは必ずしも思っていないんです。

一方で、地方の何よりの資産は自然です。その自然資源を生かさない手はないとも思っています。だったらそこでできるビジネス…、たとえば人のいなくなった荒れた村を美しい山に戻すような仕事を作って若い人を呼び込むとかね。行政ももっと農家さんと意識のギャップを埋める策が必要では。農家さんの目線第一で考えること。マイファームでは、そのためには何度もお話をお聞きします。

生産者と消費者がダイレクトにつながる農業を
アイデアとサービスで安心を届けよう

マイファーム西辻さん 242

座右の銘は「自産自消ができる社会へ」

─これから日本の農業に必要なものはなんでしょう

それはサービスです。第一次産業に付加価値をつけること。野菜を生産するだけじゃなく、観光農園をくっつける。直売所や個別宅配するなど、農業者が消費者と直接つながるような工夫をしないと今後は残っていけないと思います。

宮城の「復興トマトプロジェクト」では、土壌改良を行うために全国からボランティアを募りました。おおぜいの人が手弁当で東北にやってくる。皆さんの好意に応えるためにも労働力として加わってもらうだけでなく、一緒に復興を分かち合えるような仕掛けをすること=サービスが必要でした。そうすることで、その土地への愛着を深め、農家さんとの信頼関係が生まれます。宮城では引き続き、農家さんの同意を得て「しあわせのきいろプロジェクト」を立ち上げ、参加者を募って菜の花の種をまき、春には菜の花畑を会場にイベントを行いました。

─サービスを取り入れることで何がかわるのですか

今、日本では外国産の食材がスーパーにズラリと並び、どのようにつくられたのか全くわからず、安心して食材を選べない状況です。これからはお腹や味覚を満足させるだけでなく、環境や身体に良い食材、健康に注目が集まる時代です。消費者にとって国産の農作物は安全であって当たり前。いかに信頼できるお店(または生産者)とつながり、安心して食材を買えるか─。食への関心がますます高まる中、農家さんの工夫=サービスが必要だと思っています。

将来的には、先進的な日本の農業を世界に広めたい。技術は、世界でも高いレベルですし、このサービスという付加価値をつけた農業のあり方は世界の消費者も望んでいるものだと思っています。

─最後に農業人を目指す人にメッセージをお願いします

農業はおもしろい!先ほど話したように、これからの農業には工夫が必要。ちょっとカッコ良くいうと、ますますクリエイティブでワクワクするものになるはずです。アイデア次第で、ユニークで個性あふれる農家さんになれるでしょう。アグリイノベーション大学校の卒業生も、半農半ITで米作り+お米屋を始める人や、養蜂を営みながらマルシェを開いたりと多角的に活躍していますよ。 農業に新しい風を吹き込んでいきましょう。

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マイファーム西辻社長の「お仕事七つ道具」拝見!

終始、柔和な笑顔の西辻さん。穏やかな表情からは想像もつかないブレない強さと、夢を持つ人のパワーを感じました。これからも農と人をつなぐビジネスで、耕作放棄地ゼロを目指して頑張ってくださいね。 さてさて、気になる西辻さんのお仕事道具が下の写真↓↓↓↓

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全国の農家さんを訪問することが多いので、歯磨きセットや胃腸薬などの常備薬は必須。「農家さんとの飲み会続きになることも多くて」。極めつけは、絵葉書セット。農家さんに、ちょっとしたお礼やごあいさつをする時は、必ず自筆でお便りをするのだそう。
早速、見習わなくっちゃと思うfarm+bizスタッフでした。西辻さん、お忙しい中、本当にありがとうございました。

■株式会社マイファーム
京都市下京区朱雀正会町KYOCA会館3F(京都本社)
TEL 075-746-6213
myfarmer.jp
https://myfarm.co.jp/

■アグリイノベーション大学校
TEL 0120-975-257
info@agri-innovation.jp
https://agri-innovation.jp/

取材・文/杉谷淳子

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