農業界は大変革の時代へ
持続可能な農業ビジネスをつくるエコノミスト

金融業界から農業界に参入した野村ホールディングス。その旗振り役であり、エコノミストとして活躍する野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 取締役社長・西澤隆さんに、弊社メディア事業本部長・齋藤がインタビュー。経済関連の著書も多い西澤さんが感じる農業界の課題と持続可能な農業ビジネスについてお聞きしました。

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西澤隆(にしざわ・たかし)。野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社 取締役社長。エコノミスト。1964年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院経済学修士、野村総合研究所入社。2004年野村證券金融経済研究所経済解析課長を経て、2010年10月から現職。著書に『人口減少時代の資産形成』(2005年 東洋経済新報社)、『日本経済 地方からの再生』(2009年 同)など。

野村アグリプランニング&アドバイザリーが設立されて、もうすぐ5年ですね。具体的にはどんな事業を行っているのですか?

野村アグリプランニング&アドバイザリー(以下:NAPA)は、野村グループの一員として、「アグリビジネスを軸に地域活性化を通じて、日本経済の発展に貢献する」との思いのもと、2010年9月に設立しました。グループのネットワークを活かし、地方自治体や地域金融機関、大学、事業会社、農業生産者の方々との連携を深めながら、主にはコンサルティング事業、調査事業、生産事業に取り組んでいます。

金融業界からの農業界参入は当時としては驚きでした。
今は農業ビジネスをしたいという企業や団体を後押しする立場ですよね

そうですね。今は農業を柱にした事業の立ち上げのコンサルティング業務や農業法人の設立が多いのですが、農業生産者と組んで新しいことをしたいという企業が増えています。本音をいえば我々もびっくり。こんなに農業に関心が集まっていたとは…という感じですね。

そもそも、なぜ野村グループが農業界へ参入することになったのですか

野村グループの営業部門は全国に159店舗あります(2015年3月末現在)。金融業としては、資金需要が発生しなければ商売になりません(笑)。一方で、地方では人口も減り、経済は衰える一方です。だったら地域でお金がまわるような仕組みを作れないものか。言い換えれば地方経済を活性化することができればと考えたのが始まりです。

これまでも地方への企業誘致のお手伝いをすることがありましたが、最近では人件費の安い海外に工場を移転するなど、地域にその産業を根付かせるのが難しい時代になってきました。そこで『逃げない産業』は何かと考えたときに、出た答えが農業だったというわけです。

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エコノミストとして著書も多い西澤さんですが、ご自身は農業とは接点があったのでしょうか

いえいえ、実家も農業ではないですし、これまで金融・経済一筋で仕事してきたんですよ。ほんとに農業に関しては、なんの知識もなかった。新参者なので、生産者にアドバイスやコンサルティングをするといっても、「なに言ってんだ、農業についてなんも知らんだろう」と言われそうでしょう?それは言われて当然だと思ったんですよ。だからまず農場をつくることから始めようと設立の翌年(2011年)に農業法人を立ち上げました。私も、今の農業界の何が問題点で、どこを改善すれば安定して利益が出せるのか─。実証したみたいと思ったんですよ。

それで農産物の生産もしているんですね。
金融企業が農場まで持っているとはすごい

わかんない世界だったら、やってみなきゃわかるまい─ですよ。それで農業で地域活性化することを考えた時に、4つの方法を検証してみたいと考えたんです。

1つは 都市近郊型の農業の可能性について。これは千葉県に水耕栽培でトマト農場を作り安定的に農産物を生産し、都市圏への供給の実証を続けています。2つめは大規模化によるコスト削減のメリット。こちらは北海道の江別に約18haの農場を作りました。3つめは中山間地域をはじめとする地方の農業による地域活性と生産物のブランド化です。

農家さんと同じ視点にたつことから始めたことのメリットは大きいですよね

それは本当にそう思いました。細かいことからいえば、専門用語の多い農業界で農家さんと同じ言語で話すこととかね。最初は圃場や播種って言葉もわからなくて。ホジョウってなんだ?ハシュって?というレベルなわけです。それが今じゃ、広さを伝えるのにヘクタールでなく、“町歩(チョウブ)”なんて使うようになりました(笑)。もちろん会社なので、生産をして利益を出さなきゃならんので毎日が真剣ですよ。

 

『日本経済 地方からの再生』西澤隆+桑原真樹(2009年、東洋経済新報社)

『日本経済 地方からの再生』西澤隆+桑原真樹(2009年、東洋経済新報社)

苦労もあったのでは?

いや、確かに大変でした。農地の取得や農業生産法人を作ることは、普通の企業を作るのとは違ったいろんな制約や条件があり、苦労しました。しかしやってみると乗り越えられないことはない。実際には生産者さんやJAさんのご協力を得て進めることができたという感じですね。

また農業は息の長いスパンで経営を考えないといけないことが多い。たとえば野村グループのコア業務である証券業でいえば、短期だと3ヶ月というスパンで金融の動向をみます。もっと言えば明日儲かる、あさって儲からないという世界なんですよ。ただそんな世界にいながらも、私自身はエコノミストとして中長期の経済予測することが専門だったので、農業の経営やコンサルティング業務をするうえで良かったのかもしれません。なんといっても、農業だと種をまいたら、収穫は年を越すとかは普通にあるので。

NAPAとして今年、一番力を入れたい取り組みを教えてください

農業関係の事業会社の事業計画の策定や資金調達のお手伝いを中心に据えていきたいですね。やっぱりここが本業なので。内容としては輸出関連です。特に販路の拡大は生産者さんの共通の命題です。
野村グループでは世界各国に拠点を持っているので強みでもあります。日本では、世界に誇る高品質の農産物の生産を行っています。この素晴らしい農産物をどういうふうに売るのか。今は活かしきれていない気がしています。インバウンドとして、海外から旅行者を呼んで消費するのもありです。国内だけでなく、グローバルな視野で外との関係をうまく作るビジネス構築も重要なんじゃないかな。

先ほど、中山間地域の農業活性化についても検証したいとお話しましたが、実際に6次化により輸出関連などが増えつつある農業法人もあるんですよ。

農業の6次化は、今やメジャーな言葉になりつつありますよね。
西澤さんが思う6次化の鍵はなんですか?

農業生産者が1次産業だけでなく、農産物を使って2次産業(加工・製造)、3次産業(流通や店舗展開)をして儲けていこう=6次化という流れがありますが、私はプロはプロに任せた方がいいと思っているんです。もっといえば農家さんが全てしなくても、それぞれの専門分野とつながって、儲かる商品やサービスを作ることも6次化だといいたいですね。物理的な農産物の流れを農家さんが全て取り込めば儲かるのでしょうか。単純に野菜や果物を加工して商品にすれば売れるというものではありません。

実際に生産者が都会の消費者動向を調査できればいいのですが…

“売れるものだから作る”という発想が大事です。
いかにトマトを高く売るのか、どこにどんなふうに売れば付加価値が生まれるのか。農業生産者は農産物作りのプロであって、そこに大きな時間が割かれます。だから素直にほかの力を借りても良いと思いますね。例えば自動車メーカーは、カーナビの開発までしないでしょう。同じことが言えると思うんです。

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「座右の銘は特にないなあ」とおっしゃりつつ、書いてくださった言葉が『好奇心』。農業はこれからワクワクするものになるはずだとお話くださいました。

では農業ビジネスを成功させるには、何が大切とお考えですか

それは事業主体がしっかりしていることです。事業として運営していく強い意思をもっていること。おいしい農産物をつくることは重要だけれど、それだけでは事業継続はむずかしい。

例えば、ある地域で農業での新規事業が立ちあがり、協議会が設立され、さて皆さんが集合したところで、誰が、またはどの団体、企業が中心になって動かすのかというところで話が止まる。事業計画をたてることなら、私たちもお手伝い出来るから良いのですが、しっかりとしたビジョンをもった主体者がいないと、前にすすみません。特に農家さんの集まりですと、生産することで手も頭もいっぱいになってしまう。主体者がいること。ここが農業ビジネスの一番の要です。

次に農業の人材についてお聞きしたいのですが、
新規就農者は増えているものの、離脱する人も多い業界です。
問題はどこにあるのでしょう

家族経営で支えてきた日本の農業ですが、やはりこれからはほかの業界と同じように人を“雇用”する業界に変わっていくべきではないでしょうか。農地を持って独立就農するだけが就農ではありません。しかしそこには儲けがないと。これからの農業経営者は、事業主として生産だけでなく、「売れるためには」をという意識で人を采配していくと良いのではないでしょうか。

最後に今後のNAPAの展望をお聞かせください

目標はファイナンス(資金調達・運用)までつなげていきたい。これまで企業参入だったり、農業法人を立ち上げて大きくするということをやってきました。一昨年から農林漁業者の6次産業化を支援する官民ファンド「農林漁業成長産業化ファンド」の活用が可能になりました。これまで野村で培ったノウハウを活かして、地域と協力しながら、地域でお金がまわる仕組みづくりをどんどんしていきたいですね。

私はこの事業を始めたときに、農業界はこれから変わっていくだろうと予測していましたが、10年はかかると思っていました。しかしTPPの問題や農業を取り巻く規制緩和など、周囲の環境も後押しし、実際は倍の早さで変化しています。農業生産者さんもどんどん変わりつつあります。これからどんどんおもしろくなるはずです。新しい農業ビジネスの幕開けはこれからですよ。

予想以上のスピードで農業は変革期を迎えているという西澤さん。終始、明快なおこたえをいただき、目からウロコの取材となりました。多忙な中、取材にご協力くださり、本当にありがとうございました。

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野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社
西澤隆さんの、お仕事の七つ道具を拝見

通信は、スマホ、BlackBerryの2台を使い分け。BlackBerryがあれば、PCがなくてもどこでも仕事ができると話します。身だしなみ用品はポーチに収納。風邪かなと思ったら、すぐに薬を飲んで予防を心がけているといるのだそう。超多忙を極める西澤さんならではの体調管理法。見習わなくちゃ!

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手前左から時計回りに、ブラシ、コロン、ひげそり、風邪薬、BlackBerry、スマホ

 

■野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社
東京都千代田区大手町2-1-1 大手町野村ビル22階
TEL 03-3281-0780
http://www.nomuraholdings.com/jp/company/group/napa/index.html

取材/齋藤理
文/杉谷淳子

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