高知県のれいほく地域にある大豊町。山間部にあるこの冷涼な土地で「はるひ畑」を営む杉本和也さんの前職はプログラマー。2005年、農業を始めるために南国市より移住し、数年間はプログラマーの仕事を続けながら、トマト農家を営む叔父のもと農業を学んできた。2009年にプログラマーを退職し、自身の農園「はるひ畑」をスタート。
今回は、移住者の先輩である杉本さんご夫妻に、移住して農家を営むことについて話を聞きました。

 

有機野菜に対する考え方を大きく変えた、直売所での意外な事実。

はるひ畑代表 杉本和也

― 杉本さんが農業に興味を持ち始めたのは、農家を営んでいた叔父さんの影響なんですよね?実際、農業を仕事にしようと思われたのはどうしてですか?

杉本: もっと「人の生活」や「命」に直結する仕事をしたいという想いがありました。プログラマーをしていたときに、ちょっと自分の思い描く方向性と違うように感じてきたんです。プログラミングって、車を動かしたり飛行機を動かしたり、いろんな分野に関わるとても重要なものではあるんですが、プログラミングを作ってもパソコンの中でしか動きませんから。

― ご家族からは最初は反対されていたんですよね?

杉本: お前に農業で成功する可能性はない、安定した職業が一番だって言われましたね(笑)。今はサラリーマンも安定しているかどうかわからないですけどね。

― その言葉を受けて気持ちが揺らぐことは?

杉本: それはなかったですね。特に根拠はないけど自信があったんです。今までの経験から考えると、何かを短期間で成し遂げる能力はないんですけど、コツコツ続けていくことは得意な方だったんですよ。時間さえあれば、ゼロからのスタートでもちょっとずついい状況に持っていけていたので、コツコツやっていけばうまくできるんじゃないかなという自信はありましたね。

― トマトを作ろうと思われたのはなぜですか?

杉本: それは叔父を手伝っていた影響ですね。トマトなら、収穫しながら割れたトマトやへたが取れたトマトを食べることができて、出来具合が毎日判断できるんですよ。煮炊きする野菜はすぐに確かめられないですし、違いがわかりにくい。敏感な人にはわかると思うんですが、僕には全然見分ける自信がないので(笑)。

― それで、2009年に仕事を辞めて本格的に就農されたんですね。

杉本: 2009年の始めた当初はあまりうまくいきませんでした。でも、その期間に直売所で手伝いをしたことで大きく変わりました。というのも、農薬は良くないと言われていて当時から僕も有機栽培をしていたし、有機野菜の方が売れるイメージがあったんですが、実際、直売所で売場に立って見ていると、お客さんは有機野菜コーナーには見向きもしないんです。考えてみると、高知県は県民所得が低いし、お金持ちの割合も低い。一般的な消費者にとっては、『有機野菜は値段が高い』っていう感覚があるから、普通の野菜コーナーばかり見られるんですね。試しに自分で作った野菜を、同じ値段で有機野菜コーナーと普通のコーナーの両方に置いてみたら、普通のコーナーの方しか売れなくて。そのときに、ベテラン農家の方が30年の経験を持って作っているものに対して、始めて2~3年くらいの新規就農者が有機野菜だからといって倍の値段で出している状況にすごく違和感を覚えたんですよね。それで、僕も有機JAS認証(※1)を取っていますが、それほどアピールはしなくなりました。東京のこだわりのお店とかだったら有機野菜は注目されるんでしょうけど、一般的な消費者はあまり買わない。それだったら、一般的な人が普通に買える野菜として提供して、何かのきっかけで気付いてもらう程度でいいかなと思ったんです。

(※1)
農薬や化学肥料などの化学物質に頼らず、自然界の力で生産された農産物、加工食品、飼料及び畜産物に付けられる。登録認定機関が検査を行う。有機JAS認証が無いと「有機」「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されている。

― 農業についての知識がついたのは、そういう直売所での経験も大きいのですか?

杉本: そこから繋がっていったことが大きいかもしれませんね。作業自体は叔父のもとで一通りのことを習っていたんですが、肥料のやり方は最初はよく分かっていなくて。たまたま直売所のつながりで、肥料屋さんがやる勉強会に参加させて頂いたんです。そこで、土壌分析してちゃんと数値を出して、肥料をあげていかないといけないことを知って。それが僕のトマトを育てるベースになりましたね。ただ最近になって、その話の通りにしても対応できないケースが出てきたりして。数値も大事だけど、結局は野菜の生育状態を観察して調節することがとても重要だということに気付きました。今は、野菜を観察しつつ、分析値の数値も参考にしてやっていますね。

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