農業ムーブメントを起こせ
消費者と農業をつなぐ“草の根活動家”

ある時は造園プランナー、ある時は農業のコーディネーター、大好評の産直マルシェの運営に、都市と農村をつなぐバスツアーまで。4月16日には、「谷町空庭」の取り組みから生まれた「米粉LOVERS 」からレシピ本も発刊!山内さんの肩書きは、実にたくさんあって1つに収まりません。でも一貫しているのはだた1つ─「農ある暮らし」を伝えていきたいということだけ。大阪市内のド真ん中・谷町4丁目にあるレトロなビルを訪ね、屋上空間「谷町空庭」で早速インタビュー!

谷町空庭 山内美陽子さん1

山内美陽子(やまうちみよこ)。「谷町空庭」オーナー。造園プランナー、農業コーディネーター。2004年にカフェ&フリースペースとして「谷町空庭」をオープン。人・緑・農・食をつなぐ仕掛け人として、農家と都市に住む人々をつなげる取り組みやマルシェを運営。

 

「谷町空庭」─ 言葉通りの空間ですね。

このビルは祖父が生前に建てたものです。屋上が庭と畑スペースになっています。そのほかはシェアオフィスなどのほか、5階は自宅、6階は毎週水曜日のみ「空庭カフェ」として、一般開放し、農家さんの野菜をつかったカレー&米粉パンランチを楽しんでもらったり、カフェ以外のときはレンタルスペースとしています。ここで料理教室や農や緑のセミナーなどを開催することもあるんですよ。

「谷町空庭」をオープンするきっかけは?

大学で造園を学んだのですが、その頃の恩師の影響で「農ある暮らし」(※)というライフスタイルに惹かれるようになりました。大学時代はそばの市民農園で野菜を作ったり、フィールドワークで棚田の実測をしたり、日本庭園を勉強したり。人の手で築かれたすてきな緑や農のある風景を見るにつけ、私も携わりたいと思うようになりました。

それが社会人になってからは、わざわざ田舎に行き、ほんのひととき自然にふれたら、また都会の生活に戻ってという感じで…これはなんだか私が求めているものとは違うなと。それで、よくよく考えたら昔、おばあちゃんが屋上で畑をやっていた事を思い出し、それならと“生活に近い緑”を追求したくて「空庭」を始めました。なんともユルい感覚です(苦笑)。

※農ある暮らし=東京農業大学名誉教授・進士五十八氏が提唱。
「農ある暮らし研究会」HP
http://www.nouarukurashi.co.jp/

空畑クラブ

「谷町空庭」のビル屋上。都会にいながら、青空の下で農作業ができる。現在は「空庭畑部」が運営。

“ソラニワ”って語感が良いです
屋上緑化のはしりですよね

「空庭」をオープンしたのが、2004年の秋。社会的にはCO2対策などで“屋上緑化”がよいと注目されどんどん普及が図られていた頃です。なんですが、実際に屋上にあがると、全然気持ち良くない、楽しくない。緑が植えられているだけ。屋上を緑で埋め尽くせばいい”という考え方に疑問があって、もっと楽しく緑とふれあえたらいいんじゃないかと、「空に近い庭」だから「空庭」という名前で、お茶が飲める場所として開放しました、そしたら口コミで広がり近隣の人々はもちろん、遠方からもお客様がやってきてくれました(笑)

仕事の方は、病院や住宅などの空庭づくりの依頼が相次ぎ、やりがいはあったのですが、植物を全てこちらで持ち込んで「はいできました、終わり」というのでなく、「暮らしに近い緑」の根本は、やはり「実になり、収穫して食べられたり暮らしのなかでより植物が活用できるといいな」という思いがより湧いてきて、お客さん自身が種まきしたり、農作業をしたりするためのお手伝いをしたいと思うようになりました。

それで屋上に畑を?

折しもその頃、家庭菜園のブームがあって、おしゃれな雑誌などにも特集が組まれるようになり、農のある暮らしがいいよねと、声に出していいやすくなり(笑)。そういったことに関心のある仲間もちらほらと集まるようになって、空庭があるなら空畑があってもいいよねと「空畑クラブ」を作りました。

谷町空庭 山内美陽子さん5

取材時は4月。イチゴの苗もいっぱいでした。

 

いつも時代のちょっと先をいっている感じですね

ちなみに「空畑クラブ」ははじめはプランター菜園に関心のあるグループというくらいだったんですが、それだと収穫量も少ないので、枚方市の農園「杉・五兵衛」さんと体験農園「ハタケスクール」をしていました。わたしは立ち上げただけで今はもう手を離れているのですが、そこで今も活動が続いています。また「空庭」の屋上で農作業をする部活動は「空庭畑部」。会費制ですが誰でも参加OK。登録メンバーは合わせて現在約30人くらい。毎週日曜日、集まれるメンバーが畑の手入れにきます。

“挫折しそうなあなたに送る…空畑クラブ”など、ネーミングがユニークです
山内さんの発想力の源ってなんでしょう

そうですね。いろんな人と交わって話をする中では「こんなことしたら楽しいんじゃないかな」という発想が生まれてきて、皆さんの「イイねイイね♪」が私の原動力になっている感じです。
土のない都会で、農や農業っていっても興味がないと心に響かないし、参加するのに条件や負担があると、なおさら敬遠されそう。都会の人に農や緑を自然に取り込んでもらえる形ってなんだろうと意識してると、それに共感してくれる人が集まってきて大きな輪になっていく感じです。人と人をつなぐリレーション能力が自然と鍛えられていきました。

農家さんと消費者を結ぶ取り組みとして、
農産物を加工品にするお手伝いもしているそうですね

収穫した作物をそのまま出荷するだけでなく、加工品にして販売する6次産業化の取り組みは、今、国をあげて奨励されています。漬物やお菓子など、いろいろな商品づくりに携わってきましたが、米粉の普及もしています。米は、日本で最も伝統的な食材ですしね。自慢はこの米粉の麺です。これでパスタもできるんですよ(写真下)。現在、市販されている米粉には小麦粉を混ぜたり添加物を入れたり、ゆで時間も長いなどのものが多いんですけど、これは至ってシンプル。米とデンプンと塩のみで、ゆで時間も短くまた賞味期限も長く何か月も保存できる。

谷町空庭 山内美陽子さん6

大阪府堺市・寺田農園さんの農薬不使用米でできた麺「みねらる麺」(参考上代1玉200円)。

麺なら、米粉料理に自信がない人も使いやすそう

「谷町空庭」では、日本の伝統食材を大切にし、無農薬や減農薬、有機栽培など、できるだけ体に良いものをPRしていきたいと考えています。現在、小麦粉は外国産のものが多く、アレルギーなどで、うどんやパスタ、ケーキやパンが食べられない方もいます。小麦粉を食べなくても米粉でいろいろなお菓子や料理がつくれるんだよと言いたいです。

それには、米の成分を壊さずに、よりきめの細かい粉にしてくれる製粉所がポイントになります。今回はそれに加えておいしい麺に仕立ててくれる製麺所も見つけ出すのに苦労しました。農家さんはおいしいお米をつくる術は知っていても、製粉所や製麺所をまわって、お米の癖を理解してもらえるメーカーを探す時間ってないんですよね。消費者の要望を農家さんに伝えて、おいしいものを農家さんが作るサポートをし、消費者と農家さんを商品でつなぐ。それも私のやりたいことなんです。今この麺は大手の外食企業で鍋のシメとして契約受注され、多くの人に食べてもらってるんですよ。

米粉LOVERSのレシピbook

谷町空庭が運営する「米粉LOVERS」の取り組みから生まれたレシピ本。4月16日に発刊。発行:大阪ブリキ玩具資料室
800円+税 (864円)

今、一番の課題は?

課題というか、農業コーディネーター的なことで食べていくのはなかなか難しいと思っています。農産物を仕入れて販売する販売業を中心にしているわけでもないですし、依頼があって農家さんの経営相談や販促のお手伝いのコンサルタントをしているわけでもほぼありませんし。ただのおせっかいです。おせっかいの域でコーディネート料くださいなんて言えません(笑)。

色々とできる範囲でいろんな農家さんの販促のお手伝いや、加工のアドバイスや加工所を見つけだしてつないいでるんですが、おせっかいレベルでして。
なので、今後は築いてきた農のネットワークを有料の登録会員制にして、そのなかで情報を得たり、マッチングが促進されたりするような仕組みを作ろうと考えています。

「大阪ぐりぐりマルシェ」が好評ですが、大阪市中津周辺でも新しいマルシェがスタートするとか?

現在、難波神社で定期的に開催している農産物と手作り市「大阪ぐりぐりマルシェ」が2周年を過ぎ、今後は私が実行委員にならずとも、企画をパッケージ化して、その地域の人たちによる、地域のためのイベントになっていけばと思ってるんです。そのほうがまさに地産地消で個性豊かなマルシェになるはず。私は企画でどんどん「人・緑・農・食」をつなげていこうかなと。

その第一弾として、5月17日に豊崎神社で「豊崎ピクニック」を開催します。ネーミングが楽しそうでしょ。境内の木立のなかで本を持ち寄ったり、手話講座や踊りなどのイベントも企画。これはもう祭りですね。お時間がある方は、ぜひ足をお運びくださいね。中津ならではの空気感がきっと伝わるはずですよ。

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「農村と都会の両方の良さを知っていることが私の強み」と語る山内さん。たくさんの農家さんやマルシェ関係者やそのファン、「谷町空庭」の支援メンバー…と、 実に多くネットワークを持っていらっしゃいますが、実はとってもシャイな方。お会いするのは何度目かですが、人と人との距離感をとても大切にしていらっしゃるからこそ、多くの空庭ファンがいるのだと改めて感じました。

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「谷町空庭」山内美陽子さんの、お仕事の七つ道具を拝見

いつも持ち歩いているものは、マルシェのチラシにカメラ、ノート、ペン、6次化商品のサンプルなど。(カメラはレンズの開閉部分が壊れかけてる!?) 山内さんが「人・緑・農・食」をつなげる必須アイテムだそう。取材当日も90分の間に訪問者は実に6人。いつのまにか人が集まってくる「谷町空庭」さん。米農家さんを応援するプロジェクト「米粉LOVERS」から生まれた米粉専用レシピ本も4月に登場したばかり。今年も企画盛りだくさんの「谷町空庭」から目が離せません~♪

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座右の銘は絞りきれなくて3つになったと笑う山内さん。

座右の銘は「百姓」=百はたくさん、姓(かばね)は職業や能力を表すのだとか。本当に文字どおり、百姓はたくさんの能力がいりますよね。「危険な道をとる」は芸術家・岡本太郎の言葉から。「利他」は他人のために働くということ。山内さんも、周囲を笑顔にするような現代版の百姓になりたいと思っているそうです。

■谷町空庭
大阪市中央区常盤町1-1-8 屋上・6階・4階(シェアオフィス)・2階
TEL 06-6949-0679(16時以降おかけください)
soraniwa88@gmail.com

取材・ 文/杉谷淳子

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