農業・地方はチャンスのかたまり!

日本の農業界を盛り上げていくには、優れた農業機械を作ることはもちろん、栽培、経営といった農家が抱えるソフト面でのソリューションにも取り組む必要がある─。
今回は、ヤンマーアグリイノベーション株式会社・取締役の橋本康治さんに、弊社クックビズ株式会社・社長の藪ノがインタビュー。農業をカッコイイ職業にし、「儲かる農業」にするには? ヤンマーきっての仕掛け屋、橋本さんが目指す企業支援について、たっぷりお聞かせいただきました。

ヤンマー橋本さま2

橋本康治(はしもとこうじ)ヤンマー株式会社農機事業本部企画部ソリューション推進部部長兼ヤンマーアグリイノベーション株式会社取締役。1966年大分県生まれ。鹿児島大学水産学部卒。1989年、ヤンマーディーゼル株式会社入社。2010年、ヤンマーアグリイノベーション株式会社代表取締役に就任。

 

研究とラグビーに没頭の大学時代
就職のための会社訪問も体当たり勝負!

今の会社に入社するきっかけは?

僕は大分県の兼業農家の長男です。父は勤め人でしたが、祖父がお米とみかん、野菜を作っていました。周囲は農家のせがれが多くて、友達の家に行くとでっかいトラクターがデンとあってね。カッコイイなあと思っていました。
ともあれ、祖父は「農業は儲からないから継がなくていい。公務員がいい。できれば大分県庁の職員を目指せ」と口癖のように言っていましたね。

大学を受験するときに「食」にまつわる仕事だったら未来永劫、食いっぱぐれることはないだろうと考え、鹿児島大学水産学部に入学。ラグビー部所属で、海洋実験場にいるかグラウンドにいるかの毎日でしたね。そんな折、ヤンマーマリンファーム完成との新聞広告に目が留まりました。

ヤンマーマリンファームとは?

ヤンマーでは、船舶エンジンや漁労機器にも力を入れていたので漁業とのつながりが深く、早くから、従来の「獲る」を基本とした漁業から、養殖など人の手で「つくり、育てる」時代がやってくると考えていました。ヤンマーマリンファームはその可能性を探るための専門研究施設として1988年に設立されたものです。それが大分に出来るとわかった瞬間、「ここで働きたい!僕が目指す研究そのものだ」と(笑)。

 

ヤンマー橋本さま3

大阪・梅田にあるヤンマー本社ビルの屋上庭園では、なんと養蜂を行っています。同社では大阪・梅田の養蜂活動「NPO法人 梅田ミツバチプロジェクト」を支援。周囲の木箱が巣箱。詳細はこちら。http://ume-pachi.jp

ヤンマー養蜂巣箱

目指す研究というと?

僕がやりたかった研究というのが、例えばクジラにサケの遺伝子を組み込んで放流したら、大きくなって自ら戻ってくるのではないか─というようなもので(ハハハ)。そしたら食糧危機の対策になるのではと教授に大まじめに訴えましたが、「生態系がおかしくなる!」とあっさり却下。(一同:爆笑)
だからマリンファームで絶対就職しようと、生まれて初めてスーツを着用。軽トラに手土産のみかん1ケースを携えて訪問したんですよ。なんたって実家がみかん農家なんで。そしたら親会社であるヤンマーディーゼル株式会社を受けてみなさいと。それが入社のきっかけです。

生産者が儲かる仕組みをつくらねば─
入社当時の問題意識が今の取り組みに発展

みかんを手土産に軽トラで会社訪問とはユニークです(笑)
最初はどんな仕事を?

最初は技術系で入りました。活魚コンテナの開発です。時代はグルメブーム。高級レストランも活況の時代です。魚にストレスを与えず、いかに鮮度を保持したまま輸送できるかが課題です。その時に流通の仕組みを目の当たりにし、生産価格と販売価格が想像以上にかい離していることを知りました。流通には、産地から小売まで何社もの会社が関わり、中間マージンがかかります。「これは生産者が本当に儲かる仕組みをつくらんといかんな」と、その時に芽生えた問題意識が今の活動につながっていますね。

それには今の中途半端な技術屋もどきでは、会社や農業界に貢献できないと思い、社会人大学院の社内公募にトライ。仕事をしながら、名古屋市立大学 修士課程 経営学専攻コースに 2年間通って 、マーケティングを習得したことがとても大きかったです。ここでの視野の広がりが 僕の転機でした。

それから生産者が儲かる仕組み作りを実現するために、
社内に新会社を設立したんですね

そうですね。その後、営業、経営企画と、複数の部門を経験した後、ヤンマーアグリイノベーション株式会社を2009年に設立。弊社(ヤンマーディーゼル株式会社)がヤンマー農機株式会社と合併したのを機に、うちに農機事業部が出来たのですが、優れた機械があってもソフトがなかった。少子高齢化で農業の担い手は減る一方。農業を志す人がいてもそれを教える人材すらいない。栽培は?経営は?これは少し遠回りでも、農家さんのバックアップからテコ入れをしようと。そこで立ち上げたのがヤンマーアグリイノベーション株式会社です。

ヤンマー橋本さん3

具体的にはどんな支援ですか

最初に手がけたのが2010年、広島県からの委託で行った「大規模野菜経営実証事業」です。
「新規就農者の育成」「地域の活性化」「6次産業化」「農業生産の効率化と栽培技術促進」を目指し、広島県世羅町に4.6ヘクタールの農場「ヤンマーファーム」を開設しました。これがね、真っ赤な赤土なんですよ。およそ作物なんかできんやろうというような(苦笑)。

戦後、食糧増産のために国が農業用地を造成したわけですが、そこが耕作放棄地になっていまして。これまでに何人もの人がこの地で農業に取り組んだのですが、作物が育たずに去っていったそうです。しかし、ここで結果を残せば後につながるとチャレンジしました。

どんな苦労がありましたか?

苦労はやはり土づくりです。就農希望者は広島県が募集し、第一期生として15人ほど集まり、うちのスタッフも一緒になって汗水流し、ひたすら畑と格闘しました。しかしとにかく苗が育たない。例えばキャベツなら1ヘクタールで5トンは収穫できるはずですが、初年度はたったの300キログラムです。水はけが悪く、機械を入れてもマシンの方がイカレるぐらい(苦笑)。根が張らないんです。畑の石をひたすら取り除くという毎日が続いたこともあります。

ヤンマー橋本さま4

この時の経験をきっかけに、土壌の研究に力を注ぐことにしました。良い作物を収穫するには、まずは土。これが要です。現在はヤンマーアグリジャパンというグループ企業があり、全国2000件以上の土壌診断をしながら、農家さんにソリューションを提供しています。全国から「土」のサンプル、情報が集まってきます。新規就農者が農業する場合には、われわれに相談してもらえれば、この土ならこの作物がいいとか、こうすれば収量が上がるなど、再現性のある農業を提案することができます。

経験と勘でやってきた農家さんのノウハウを
新規就農者に提供しているんですね

そうですね、また、われわれが解決できなくても、長年、技術開発してきた企業として、専門家とつなげることはリアルタイムで対応できます。今はJAさんも田舎では特に相談員の数が足りず、新規就農者は誰に相談して良いかわからない状態です。今後はJAさんを補完して農家さんのリテールサポートもできればいいですね。

農家さん支援から地方支援へ
山積みの課題に1つ1つ丁寧にアタック

確かに地方はどこも人材不足です
地方活性化への周囲の期待は大きいと思いますが、いかがですか

広島県の取り組みと成果が世間で広まるにつれて、他府県からもお声がかかるようになりました。滋賀県東近江市では、地元のJAさんと共同で安価な米作りから野菜作りへの転換に関わるお手伝いを。兵庫県養父市では現在、耕作放棄地を活用したニンニク栽培の取り組みにチャレンジしています。農機や発電機を売るししか術がなかったヤンマーに、行政から地域の問題を解決してほしいという依頼がくるようになりました。販路や経営についての相談も受けるので、弊社の販促のプロが相談にのることもあります。

ヤンマープレミアムマルシェ


生産者のこだわりを体感できる社員食堂「Premium Marché CAFÉ」。とれたて野菜がふんだんのランチが楽しめます。

販路も?それはすごい

農園の立ち上げから土壌改良、栽培から出荷まで、1つ1つの問題に取り組む間にノウハウが蓄積されました。ヤンマーとしてもただCSR(企業の社会貢献)として取り組んでいるのではなく、新しいビジネスモデルができたり、思わぬところで農機具の販路ができることもあります。今では、大手の食品メーカーや外食会社など、農業機械メーカーだけではお取り引きがなかった企業からビジネスの話が舞い込むようになりました。

企業の立場で農業支援するうえで大切なことはなんだと思いますか

長年、機械だけしか提案できなかったヤンマーです。やはり農家さんのお話に耳を傾けて農家さんの目線で共に考えることが大切だと思っています。前述しましたが、これまでの企業ネットワークで専門性の高い人とスムーズにつなげることもできます。最近ではアイデアマンが次々と農業ビジネスの相談にやってくるんですよ。人と人、ビジネスとビジネスをつなげていくお手伝いをすることも大事だと思っています。

農業をかっこいい職業にするため
これからも改革をし続けていく

最後に就農希望者にメッセージをお願いします

今、地方の一次産業は見方をかえるだけでめちゃくちゃチャンスです。養父市では人間より鹿の数の方が多いくらい(笑)。しかし、そうなると少ない人数で政策を決定するので、大胆なアイデアが形になりやすく、これまでの既存の仕組みをガラリと変えることができます。しかし今は、地方に落っこちているチャンスが、うまく都会の就農希望者に伝わってない感じがします。これからは講演活動も積極的にやっていきたいですね。チャンスを伝えるのも役目だと思っています。

ヤンマーでは、農業をかっこいい職業にするため、農機具、農業ファッションにも力を入れていますよ。5月には、スペシャルなトラクター「プレミアムトラクター」がお目見えします。スーパーカー『エンツォフェラーリ 』などを手掛けた工業デザイナーの奥山清行氏がデザイン。農家さんにヒーローになってもらわなくては!(笑)

ヤンマー橋本さま4

座右の銘は「夢は必ず実現する」。社員食堂「プレミアムマルシェ」を、いずれは土日曜、祝日のみ、一般の人が利用できるようにしたいと橋本さんは語ります(右)。左は、弊社・社長の藪ノ賢次。

過去も内情もぶっちゃけ尽くす抱腹絶倒の話の数々…。ここで全てご紹介できないのが残念です。“みかん1箱でリクルート”の話から圧倒されっぱなしのロングインタビュー。お忙しいなか、取材にご協力いただき、ありがとうございました。

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ヤンマー株式会社 橋本 康治さんの「お仕事七つ道具」を拝見!

「橋本さんの七つ道具は?」の問い掛けに登場したのが、な、なんと美川憲一ばりステージ衣装。農家さんとの集まりもこれを着てバンバン参加するそう。「お客様の要望に合わせてなんでも芸をさせていただきますよ」。あとは名刺、携帯、会社案内。「この4つのツールがあれば、地方どこでもに行けます!」。

ヤンマー橋本さん7

 

ヤンマープレミアムトラクタ-

5月発売予定の「プレミアムトラクター」

■ヤンマー株式会社
大阪市北区鶴野町1-9梅田ゲートタワー
TEL 06-6376-9345
https://www.yanmar.com/jp

文/杉谷淳子

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