自然を相手に仕事をする第一次産業を元気にしたい

アウトドア総合ブランドメーカーの株式会社モンベル 代表取締役会長の辰野勇さんに、弊社クックビズ株式会社 社長・藪ノがインタビュー。辰野さんは21歳の時に、世界最年少でアイガー北壁の登頂に成功。日本を代表する登山家であり、冒険家です。モンベルでは、震災支援や産直野菜のwebマーケットの運営など、多彩な活動を展開中。社会活動や地域活性化に力をいれる経営者として、辰野さんは1月に「第36回毎日経済人賞」を受賞したばかりです。今回、「地方を元気に」をテーマについて聞いてきました。

辰野勇氏

辰野勇(たつのいさむ)/株式会社モンベル 代表取締役会長、株式会社ベルカディア 代表取締役社長ほか。1947年大阪府堺市生まれ。1969年、アイガー北壁世界最年少記録(当時)をもつ登山家であり冒険家。1975年にアウトドアブランドメーカー、株式会社モンベルを設立。現在、店舗数は国内外に100店以上。著書「軌跡」「モンベル7つの決断」ほか。

地域貢献に積極的に取り組む経済人として、2016年1月に毎日経済人賞を受賞

─受賞おめでとうございます。早速ですが、モンベルさんと地域の結びつきはいつから始まったのでしょうか。
2008年、鳥取県大山町にモンベルストアを出店してからでしょうか。店は中国地方の秀峰といわれる大山の登山口にあります。いっときは西日本有数のスキーのメッカとして町は賑わっていましたが、ブームが去り活気も落ちていました。そんな時に自治体から出店誘致の要請がありました。もともとこの地は、私がアイガー北壁登頂を目指していた頃に氷壁クライミングのトレーニングとして通った岩壁があり、そんなご縁で始まりました。当時、中国地方への出店はゼロで、本来なら、岡山市や広島市を想定するのでしょうが、地元の方の熱心さと、登山口に出店というのはおもしろいなと。地域貢献しようなど意気込んでいたわけではないんですよ。

─地方に出店する難しさってあると思うのですが、いかがでしょうか。
むずかしさ?どうかな、僕から見るとビジネスのあり方が、地方と都会で異なると思えないんですよ。ビジネスをしようと思うと東京や大阪などの都会に目が行きがちですが、田舎にも人は住んでいます。だからそこにも経済活動はあるわけです。売場作りも商品構成も都会の店舗と同じですね。

─なるほど。そういうものですか。
登山口にあるので、お客様は登山客が多く、山のコンビニ的な役割というのはあるでしょう。しかし意外に地方の店は商圏が広いんです。わかりやすくいえば地方に行けば、日常がアウトドア。ファッションといえば銀座や渋谷などが流行基地として挙げられるんだろうけど、そんなファッションが、地方に住む人のデイリーな服ではないしね。地方に住んでいても、おしゃれなウェアを着たい。しかも機能的で、活動しやすく着心地がよいものがほしいということなんだと思います。しかし最近は、とくに出店誘致のお話をいただくようになりましたね。

モンベル大山店

中国地方で1号店のモンベル大山店。同地方最高峰・大山(標高1,709m)の登山口に隣接。すばらしいロケーションが魅力です。

─地方創世も掲げられ、各自治体も辰野さんに地域活性のヒントをいただきたいとお考えなのでしょうね。
大山の店を皮切りに、北海道の東川町、熊本県の南阿蘇村などに出店して感じるのは、誘致を積極的に展開する自治体は意識が高いということですね。UIターンなど都会から移住する人を受け入れる体制も十分に整っています。だから地方のモンベルストアでは、もともと都会に住んでいたというお客さんも多いんですよ。石川啄木の短歌で、東北から出稼ぎに来た人が、上野駅に故郷なまりを聴きに行ってホッとするっていうのがあるでしょ。その逆で、なんとなく都会の匂いを味わって、ちょっと安心するという感じなのかな。地方版上野駅だね(笑)。われわれの店には、そんな役割もあるように思います。

社会に必要とされる存在であり続けることが大事

─地方版上野駅とはユニークな例えですね(笑)。
モンベルさんでは、地方の野菜も、自社のwebサイトで販売していますよね。
全国の“おいしい”を集めた「モンベル・フレンドマーケット」の発想は、もともとモンベルの会員組織「モンベルクラブ」の会員60万人に地方のおいしいものを食べてもらい、会員さん×農家さん双方に喜んでもらえたらと思って始めました。その農家さんの多くはモンベルのフレンドエリア内の農家さんです。フレンドエリアでは、町、島、村など地域ぐるみでモンベルクラブ会員さんのアウトドアライフをサポートしてくれています。会員になれば特典もいろいろつきます。

辰野勇さん

─会員さんが60万人もいるんですか。
地方との結びつきが強くなる中で、やはり一番の基幹産業である一次産業を応援したいと思っています。しかし、今の「モンベル・フレンドマーケット」を通した産直品の流通はまだまだです。もっと商品ラインアップを拡充する必要があるし、生産者さんは小規模の高齢の農家さんが多く、ネット販売や一般消費者への発送などオペレーションに慣れていない人も多いですしね。

─そうですね、私たちの就農支援、飲食店向けの産直サービスもスタートしたばかりですが、課題は山のようにあります。
体力と忍耐はどんな新規事業にも必要です。必要とされる存在であり続けることが大事。具体的には、生産者の視点と消費者の視点の両面が必要だということです。供給側の論理だけですすめて消費者をおいてけぼりにすると必ず失敗します。その逆もまた然り。しかし最近では意識の高い生産者さんが増えてきましたね。農協や道の駅から、フレンドマーケットに入りたいという話もでています。生産者と消費者である会員にとって、有意義なことであれば来るもの拒まずですよ。粘り強くやっていきたいですね。

地方とつながったことをきっかけにヒントを得たことも多い

─農業ウェアも販売しているんですよね。
そうですね。われわれは広義の意を込めてフィールドウェアとよんでいます。この企画開発は、最重要アイテムのひとつとして会社をあげて取り組もうと思っているんですよ。山登りのウエアというのは、いつも極限の状態を想定してつくられています。防水性、保温性、通気性などは農作業に通じる要素も多いんですよ。衣類による安全で快適な環境づくり─。機能性においては、どこにも負けないと自負しています。これまでの商品開発のノウハウを結集してつくりますよ。

辰野勇さん(左)、弊社社長 藪ノ(右)と2ショット!

辰野勇さん(左)、弊社社長 藪ノ(右)と2ショット!

─農機メーカーのクボタさんともタッグを組んでいるそうですね。
3年前からですね。クボタさんは世界中に販売チャネルがありますからね。農業だから、どうせ汚れるからなんでもいいではね、魅力的な仕事に見えないしね。農水省からは農業女子プロジェクトにも参画して欲しいと依頼もきました。今は女性をちゃんとおさえないとね。男はそこにくっついてくるだけ。どこもおかあさんが財布のひもをにぎってるからなぁ。
(一同・笑)
それと林業のウェアも力を入れていきます。こっちは山の仕事なんで、まさにモンベルのノウハウがそのまま使える。林業も担い手不足ですが、森のメンテナンスはしっかりしていかなければ、川も海もいずれは大きな影響を受けます。どちらもスピード感を持って取り組みますよ。

─第一次産業の待ったなしの感じがあるということですか?
というより、商品開発はスピード感が大事だということです。特に新しい分野に取り組むときはね、グズグズしてたんでは、マーケットに気づいてもらえない。「やります!」というコミットメントを発信しないとね。疑心暗鬼な状態でモノづくりしてたんじゃ、お客さんは心配でついてこないよ。

─確かにそうですね。モンベルさんの新商品が楽しみです。
実はフィールドウェアの話も、地方出店をしたときに、地元の人から「カッコイイ農業ウェアをつくってほしい」という声をいただいて始めたんですよ。アウトドアも第一次産業も、自然を相手にするということでは同じ。だから実はその2つはとなり合わせにあったんですよ。地方に店を出すようになり、地元の人とふれ合うことで気づきをもらえたというわけです。すべてはそこから始まったといえますね。

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アウトドア用品メーカーの立場から、一次産業に関わり、地域活性に取り組むようになったモンベルさん。辰野さん、お忙しいなか、インタビューにこたえていただき、ありがとうございました。実は当日は展示会の真っ最中で、会場にはステキなアウトドア用品がいっぱいでしたよ。おしゃれで着心地のいい農業ウェアの新規ラインナップは、今春出そろう予定です。こちらもお楽しみに。

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モンベルのフィールドウェア。発色がとにかくきれい。素材の機能性はもちろん、ポケットやファスナーの位置にいたるまで、工夫を感じます。

■取材協力
株式会社モンベル
農産物の産直webサイト「モンベル・フレンドマーケット」
農業ウェア「モンベルフィールドウェア」

取材/藪ノ賢次
文/杉谷淳子

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