昨年末に世界農業遺産(※)が発表され、日本の3地域が認定されました(参考記事)。ファームビズマガジンでは、認定された岐阜県、和歌山県、宮崎県について、シリーズで詳しくご紹介しています。第3回は、宮崎県高千穂郷・椎葉山地域の「農林業複合システム」。日本が誇る次世代に引き継いでいきたい伝統的農林業と文化について、宮崎県農村計画課の中山俊行さんにお話を聞きました。
※世界農業遺産=国連食糧農業機関(FAO)が、次世代へ継承すべき重要な農法や生物多様性等を有する地域を認定するプロジェクト

【五ヶ瀬町】茶畑

全国でも珍しくなった“釜炒り茶”を生産することで知られる茶畑(五ヶ瀬町)

1,500m級の険しい山間地で自然と和する「農林業複合システム」

宮崎県の北西部に位置する高千穂郷・椎葉山地域は、九州山地の急峻な山々に囲まれた山間地で、高千穂町、日之影町、五ケ瀬町、諸塚村(もろつかそん)、椎葉村(しいばそん)の5町村から成ります。耕地面積は総面積のわずか3%。天孫降臨の地とも伝わる神話の里で、住民は自然を尊びながら限られた資源を最大限に活かす工夫をしてきました。また、不利な立地条件をともに支え合い、絆を深めてきたコミュニティーの力も、地域の整備・創生に重要な役割を果たしてきました。この循環可能な「農林業複合システム」は、次世代へ継承すべき世界農業遺産として高い評価を受けています。主な取り組みは次の通り。

1、農林業を複合する

不利な条件を農業と林業を組み合わせることで補う
険しい山々に囲まれた高千穂郷・椎葉山地域では農地としての条件は厳しく、農家は代々、きのこやしいたけ、山に自生する山茶など森林からの恵みを頼りにしてきました。近年も、稲作、木材、椎茸、茶、肉用牛を組み合わせる“農林業複合”を貫き、森の保全にも力を入れています。手入れされた森では、木材になるスギ・ヒノキなどの針葉樹と、しいたけ栽培をするクヌギなどの広葉樹がパッチワーク模様を演出。この景観は「モザイク林」と呼ばれ、農林業複合の象徴となっています。

諸塚村のモザイク林(新緑)

「モザイク林」と呼ばれる、針葉樹と広葉樹がパッチワークのように山を飾る景観(諸塚村)

2、インフラを整備する

地域コミュニティー主導でインフラを整備
立地条件の悪いことがかえって村民の協力体制を強固にしてきた諸塚村では、戦後、住民による自治公民館を拠点とする組織をつくり、行政から独立した活動を行ってきました。険しい山間地の棚田を維持してきた山肌を縫うように走るかんがい水路網。木材や農産物を運び出し、集落間の交流も結んできた日本一の密度を誇る道路網。これらのインフラは、住民が総出で建設してきたもので、農林業システムを確立する大きな原動力となりました。

戸川集落[宮崎県日之影町]

日之影町・戸川地区石垣の村「棚田」の風景。1999年に「日本の棚田百選」に認定。2000年には「第8回美しい日本のむら景観コンテスト」で全国農協中央会賞を受賞。

3、焼畑農業を続ける

国内で唯一、伝統的農法「焼畑」を守ってきた
縄文時代に始まったとされる焼畑農業。四方を山で囲まれた椎葉村では、限られた耕作地を最大限に活かす知恵として行われてきました。毎年0.5~1haの森林に火を入れ、1年目は灰を肥料にしてソバを栽培、2年目はヒエ、3年目はアズキ、4年目には大豆と輪作し、その後20~30年間をかけて自然に戻します。長期サイクルで森林を再生、肥料や農薬を使わない農耕文化の原点ともいえる農法で、現在は、全国でも唯一椎葉村にのみ残っています。

【椎葉村】焼畑(火入れ)

椎葉村に残る伝統の農法「焼畑」の火入れ光景

4.伝統芸能を守る

五穀豊穣を願う伝統芸能・神楽はコミュニティを深く結びつけた
神楽は、収穫への感謝・五穀豊穣を願って、神々と交歓する一夜の儀式。この伝統芸能は神話の里・高千穂町を中心に各町村で受け継がれ、現在も11月から2月にかけての週末は、87ヶ所の集落のどこかで舞い明かされています。自然に寄り添う暮らしのなかで、協力して困難を乗り越え、無事に収穫を迎えられた喜びを分かちあう神楽は、地域コミュニティの結びつきも深めてきました。

神楽

篝火の灯りのもと、夜を徹して続けられる神楽の舞い

 

5.次世代を育てる

フォレストピア宮崎構想で次の世代を育てる
フォレストピア宮崎構想とは、高千穂郷・椎葉山地域の3町2村をモデル圏にし、森林を敬い恩恵を受けてきた暮らしや文化を引き継ぎながら、新しい山村を創造するというもの。1994年には、五ヶ瀬町に日本初の公立中高一貫校を設立し(※)、地域の農林業や芸能などの体験ができる多彩なカリキュラムを取り入れました。また全寮制のため、地元の農家が生徒たちの親代わりとなって生活を気にかけるなど、地域一体となって次の世代を育てています。
※フォレストピアまなびの森 宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校(1999年に同名に変更)

知事と宮嵜さん

認定証を受ける知事(前列右)と、最終審査でプレゼンテーションを行った五ヶ瀬中等教育学校の宮嵜さん(前列左)。

トークタイム★中山俊行さん(宮崎県農村計画課)×ファームビズ

ファームビズ
伝統的な農林業や伝統芸能が脈々と受け継がれてきた背景には、地域コミュニティーの力が大きく貢献してきたのですね。今回の認定に対して、地域のみなさんの反応はいかがでしたか?

中山さん
実は認定を受けても、まだまだ世界農業遺産そのものへの認識が低いようです。まずは地元の人に、地域で行っている農林業システムが世界に誇れる貴重な農業だと知ってほしいですね。さらに、この農林行システムを国内そして世界へと広く伝えたいと思ってます。

ファームビズ
フォレストピア教育の推進で、世界へ発信してくれる次の世代も着実に育っているようですね。

中山さん
今回の認定は、若い世代にとって、これから自分たちが担う地域の未来の希望となり、糧となったのではないかと思います。うれしいことに「大学で学ぶためには一旦離れざるを得ないけれど、いずれ戻って来たい」という子ども達が多いのですよ。

山附集落の掛け干し[(高千穂町)

昔ながらの掛け干し風景(高千穂町山附集落)

ファームビズ
実際に住んでいらっしゃった中山さんにとって、この地域の魅力はどんなところですか?

中山さん
私は通算6年住んでいましたが、はじめて日之影町の風景を見たときの感動が忘れられません。急峻な山肌に連なる棚田が美しかったこと。手入れが行き届いていたのは、美観のためではなく、草を牛のエサにするという伝統的な循環型農法を行っているからなんですが。それから、高校生が初めてすれ違う私にも、自ら挨拶してくれたことにも感動しました。教育されてではなく、まったく普通に。ここでは、地域全体が家族のように親密なコミュニティーを形成しているからでしょうね。自然と人情味あふれるところに、便利さを超える魅力を感じました。

ファームビズ
モザイク林もそうですが、棚田の美しい風景も自然と調和した農法から生まれているんですね。ぜひ行ってみたいです。

中山さん
夜神楽もすばらしいですよ。収穫を終えた11月から2月にかけての毎週末、いずれかの集落で、篝火だけが灯るなか神楽の舞が夜を徹して続けられるんです。この幻想的な光景を、ぜひ多くの人に鑑賞していただきたいです。

認定セレモニー

認定セレモニーの様子

■取材・画像協力/宮崎県農政水産部農村計画課

世界遺産に比べて、まだまだ認知度が低い世界農業遺産。現在、15カ国36地域が認定され、日本はそのうち8地域を占めています。先進国にありながら、認定数が多く、多様な農業のカタチがある日本に世界が注目しています。また、ファームビズマガジンでは、LIFE「いなかの住まい情報」(詳細はこちら)でも、昨年12月に世界農業遺産の認定を受けた3地域が取り組む移住支援策について特集しています。

世界農業遺産/日本の認定地域

認定された年 地域 評価ポイント
2011年 新潟県佐渡市 「トキと共生する佐渡の里山」
石川県能登地域 「能登の里山里海」
 2013年 静岡県掛川周辺地域 「静岡の茶草場農法」
熊本県阿蘇地域 「阿蘇の草原の維持と持続的農業」
大分県国東半島宇佐地域 「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」
 2015年 岐阜県長良川上中流域 「清流長良川の鮎~里川における人と鮎のつながり」
和歌山県みなべ・田辺地域 「みなべ・田辺の梅システム」
宮崎県高千穂郷・椎葉山地 「森林保全管理が生み出す持続的な農林業と伝統文化」

 

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