昨年末に、世界農業遺産(※)に認定された日本の3地域の取り組みを紹介する連載企画(参考記事)。第1回の岐阜県の「長良川システム」に引き続き、第2回は和歌山県の「みなべ・田辺の梅システム」をご紹介します。伝統的に受け継がれてきた日本一の梅の産地の農業形態について、みなべ町役場うめ課の中早良太さんにお話を伺いました。
※世界農業遺産=国連食糧農業機関(FAO)が、次世代へ継承すべき重要な農法や生物多様性等を有する地域を認定するプロジェクト

梅林

「一目百万、香り十里」といわれる南部梅林。早春の梅の里には白い花が咲き誇り、全国から観梅客が訪れます。

痩せた地を宝の山に!世界に誇る「梅システム」とは

和歌山県沿岸部のちょうど中央に位置するみなべ・田辺地域。このあたりは黒潮の影響を受ける温暖な気候であるものの、急峻な地形のうえ土壌は養分に乏しい礫質で、農作物が育ちにくい地域でした。「梅システム」は、そんな痩せた山地を、周囲の自然と共生を図りながら、江戸時代から約400年かけて「梅の産地」として、発展させ、人々の暮らしを支えてきた農業システムのことです。今では、みなべ・田辺地域の梅の年間生産量は、約4.4万トン(2012年)で、日本の梅生産量の概ね半分を占めています。梅の里としての観光資源の役割も担うようになりました。
次に詳しく「梅システム」が注目されるポイントについて紹介しましょう。

2015年5月、FAO(国連食糧農業機関)による現地調査の様子。

2015年5月、FAO(国連食糧農業機関)による現地調査の様子。

自然に逆らわない「梅システム」/注目ポイントは次の5つ


1、品種改良でより良いものへステップアップ

やせた土地に自生していた“やぶ梅”に注目
みなべ・田辺地域は、作物の栽培に向かない土地でしたが、当時の田辺藩主がやぶ梅が自生していることに目をつけ、米のかわりに梅畑を開墾させました。草は表面の土が流れるのを防いで地中に水を蓄え、刈り取った草は肥料として梅を育みます。400年の梅栽培では品種の改良も重ね、この地域に適応した優れた固有種を生み出してきました。その代表が「南高梅」です。皮が薄くて果肉が厚く柔らかい実は、全国でも有名です。

青梅収穫

梅の最高級品種「南高梅」。みなべ・田辺地域だけで、全国の梅収穫量の半数を占めます。

2.山の管理が、豊かな自然サイクルを生み出す

紀州備長炭用の林を守ることが、保水、防災、生物多様性のある農業地として発展
1000年前から続く伝統産業・炭焼きもまた、梅システムの重要な位置を担っています。みなべ・田辺の梅と並ぶ特産品である白炭の最高級品、紀州備長炭。炭焼き職人は、必要な原木のみを伐採し、その後に継樹を育てる択伐という手法をとってきました。梅とともに炭の原料となる林を守るため、梅システムでは、山を梅林一色にせずに、周辺にウバメガシなどの薪炭林(しんたんりん)を残します。そうすることで林が雨水を地中に貯め、里を洪水から守ります。地中で有機物を蓄えた水はゆっくりと梅畑を潤し、やがてため池に流れ込み、ため池はアカハライモリなどの地域の固有生物を育み、里山では少ないながら米など多様な農産物も栽培できるようになりました。

梅システム

山の斜面を薪炭林(しんたんりん)と梅林に。森林が保たれたことで、保水、瓦礫落下防止にもなっています。

窯出し

炭焼き(窯出し)の様子

3.ニホンミツバチとの共生を図る

ニホンミツバチのねぐらが薪炭林、蜜源が梅林
薪炭林を残したことには、もう一つ理由がありました。「南高梅」は自家受粉できない品種。薪炭林は、花粉を運んでくれるニホンミツバチのすみかとしての大きな役割をになってきました。花の少ない季節に開花する梅は、ミツバチにとって貴重な蜜源にもなるという共生関係。近年ますます梅園が拡大しているみなべ・田辺地域。うれしい反面、薪炭林のミツバチだけでは足りないという新たな課題もあり、養蜂家に協力を仰いで巣箱を増やすなどの対策を進めています。

4.町ぐるみで梅の生産から加工、販売、観光まで

地域ぐるみで生産から商品化まで
みなべ・田辺では、梅生産に加えて、プラスαの魅力を追求しています。すでに明治時代には梅の加工場があり、生産から加工、商品化まで一貫して行う仕組みがありました。現在も、梅農家が生産、加工業者が梅干しや梅酒などを製造、販売店が販路を確保。地域ぐるみで梅産業を実践しているともいえ、地域の基幹産業となっています。

梅の日

2006年、6月6日を「梅の日」と制定。これは1543年(天文14年)、奈良天皇が賀茂神社例祭において梅を献上した故事にちなんでいます。

5.“UME”を世界へ

梅の魅力を世界に広げたい
“UME”を海外に広げるには、農薬という課題があります。欧米など日本より基準が厳しい地域にも対応するため、農協と県の研究機関が協力して、梅の有機栽培化の取り組みを進めています。また、近年は、外国人観光客にも農業体験をしたいと農家民泊を希望する人が増加。地域では受け入れ体制を強化するなど観光産業にも力を入れ、世界へ向けてUMEの魅力をPRしています。

トークタイム★中早良太さん(和歌山県みなべ町うめ課)×ファームビズ

ファームビズ
梅栽培が地域の要であることがわかりました。梅の里~みなべ・田辺の暮らしとは?

中早さん
みなべ町では、就業人口約7,000人の実に8割以上が、梅に関わる仕事、例えば農業や加工業、観光業などに就いています。ですから、町の暮らしが梅とともに巡っているといっても過言ではないですね。みなべの一年は「梅まつり」で始まり、梅の日の儀式、収穫、天日干し、加工、そして五穀豊穣を祝う秋祭りを迎えるというように、みなさん、“梅暦”で暮らしています(笑)。

ファームビズ
8割以上ですか!それでは地域の絆も強いでしょうね?

中早さん
そうですね。梅を中心につながる農家、加工業、観光業、行政の4者には、梅の里を今後も発展させ、次の世代につなげていきたいという共通の想いがあります。また、世界農業遺産の認定をきっかけに、これまで梅システムへの取り組みに関心がなかった人にも、その活動への理解が深まり、住民の間で梅システムを勉強するグループができるなど、この環境を地域で協力して守っていこうという気運が高まっています。

ファームビズ
町全体が世界農業遺産の認定に湧いているんですね。今年は、観光客の増加も見込こめるのでは?

中早さん
はい、期待しています。今まさに、南部・田辺の梅園は見頃を迎えて、紅白の花が咲き競っています。また、熊野古道唯一の海沿いルート・千里の浜が、昨年9月に「吉野熊野国立公園」に追加されました。本州随一のアカウミガメの産卵地なんですよ。ぜひ、山と海どちらも観光いただきたいですね。

みなべ町役場には、“うめ課”という部署があることを今回の取材で知りました。世界農業遺産に認定された2015年は、みなべ・田辺が誇る「南高梅」が、最優良品種に認定されてから50周年という節目の年でもあり、町にとっては喜びもひとしおのようです。400年の梅栽培から積み重ねた技術の結晶「南高梅」。和食ブームに乗って、世界でも注目されるフードになるといいですね。
世界農業遺産は、現在、15カ国36地域が認定され、日本はそのうち8地域を占めています。先進国にありながら、認定数が多く、多様な農業のカタチがある日本に世界が注目しています。

■取材・画像協力/和歌山県みなべ町

******************************

世界農業遺産/日本の認定地域

認定された年 地域 評価ポイント
2011年 新潟県佐渡市 「トキと共生する佐渡の里山」
石川県能登地域 「能登の里山里海」
 2013年 静岡県掛川周辺地域 「静岡の茶草場農法」
熊本県阿蘇地域 「阿蘇の草原の維持と持続的農業」
大分県国東半島宇佐地域 「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」
 2015年 岐阜県長良川上中流域 「清流長良川の鮎~里川における人と鮎のつながり」
和歌山県みなべ・田辺地域 「みなべ・田辺の梅システム」
宮崎県高千穂郷・椎葉山地 「森林保全管理が生み出す持続的な農林業と伝統文化」

関連記事